取引が「感謝の気持ち」として残っていく
【柳澤】お店がぶんじで農家の野菜を仕入れるという話がありましたけど、その他の出口ではどんなものがありますか?
【影山】いまはお店や法人単位では、使い手があまりよくない部分はあって、お店で使うというより個人に戻してくっていうのがコツだと思っています。月額給料のごく一部をぶんじで払うとか。うちは2000ぶんじを払っているスタッフが2人います。
【柳澤】それは面白いですね。
【影山】いまだったら、一部を2000円で受け取るよりも2000ぶんじで受け取ったほうが街で暮らすことが楽しくなるっていうぐらいの使い手はあると思います。
【柳澤】それは付加価値が加わっているということですよね? 使うことによって本当に人のつながりができたり、プレミアムな体験ができたりするという。それでファンが増えていっていることがあると思います。
【影山】ただ、これまで7年半やってきたんですが、数を増やすための取り組みはしてこなかったんです。興味のある人が一人一人っていう感じで加わり、いま500人ぐらいのグループになっています。この500人の気持ちの共通性は高いという気はしていますね。
【柳澤】総発行数はコントロールしていますか。
【影山】いままでのところ100ぶんじは1万7000枚発行していて、だから「170万」×100(ぶんじ)×「流通回数」が取引量ですね。面白いのは取引の履歴がメッセージとして残っているところです。具体的に誰と誰の何の取引か、はっきりはわからないけど、街のどこかでそういうやりとりがあり、誰かが誰かに感謝した気持ちが記録として残っていく。
「そこはかとなく想像できる」履歴の良さ
【柳澤】ここにあるぶんじには7人ぐらい全然違う字でメッセージが書きこんでありますね。ブロックチェーンじゃないですけど、お金がどう動いていったか、過去の履歴が見られるというのは面白いですね。
【影山】地域の社会資本を測定するという文脈で言うと、いまはデジタルで誰と誰がいつ何をしたかまで特定することも技術的にはできるわけですが、何かそこはかとなく想像できるような履歴の残り方が僕らは好きで、あまり赤裸々にはっきり記名化するとそれはそれでつまらなくなってしまう気はしますね。
【柳澤】わかります。僕らも地域通貨をやっていて、思想的なところはよく似ています。デジタルだからいい部分もあるとは思っていますが、たとえば僕らはアプリでやっているからスマホを使える人しか使えないんですよ。
【影山】高齢者の方とかね。
【柳澤】紙で受け取るものとデジタルで受け取るものは明らかに違っていて、そこはそれぞれのよさがありますよね。でこのカードだから面白い体験になるっていうのはある。何か、すごくいい取り組みですよね。聞けば聞くほど。