「お客さんに喜んでもらうこと」から始めた

【柳澤】まず「ギブから始める」について聞かせてください。

クルミドコーヒー/胡桃堂喫茶店 店主の影山知明さん(撮影=プレジデント社書籍編集部)

【影山】はい。幸いなことにカフェを始めた当時は、まだその前の投資ファンドの仕事もやっていたので、毎月の売り上げに汲汲きゅうきゅうとすることもありませんでした。だから自分の生まれた国分寺をよりよい街にするとか、そこのお客さんに喜んでもらうにはどうしたらいいかをピュアに追求することができたんです。西国分寺にもドトールとかPRONTOとかスタバとかナショナルチェーンのカフェもあるのですが、そういったところの出店する動機とは違うところがありました。特に上場企業だったりすると売り上げを追求しなければならないわけですが、僕らは自分たちの利得ではなく誰かにギブするという発想から始めようと。そこの動機がそもそも違っていたんです。

【柳澤】街に貢献したいという考えは最初からあったんですか。

【影山】実は西国分寺っていう街が最初からめちゃくちゃ好きというわけではなかったんです。あんまり期待もしてなかった。でもやっぱりお店をやっていると日々お客さんと出会い、他のお店の方とも知り合っていくので、抽象的な街とか地域というよりも、「あの人とあそこで会った」とか「この人とあの出来事」とか「そのときの景色」といった具体的な記憶の集積としての街っていうのができて、そこへの愛着が育まれていったという感覚です。

投資ファンドの「利益追求」とは真逆の発想

【柳澤】じゃあビジネスとしてというよりは、ピュアな思いで実験するという感じだったんですか?

【影山】実験というよりは、自分が自分にうそをつかずにやろうっていうことですね。

【柳澤】投資ファンドという利益追求の考え方と真逆にいってみようと?

【影山】そうですね。ベンチャーキャピタルの仕事では10年で合計40社に投資をしました。40社に投資したっていうことは、40人の経営者に会い、40通りの経営の仕方を見てきたということです。うまくいったところもありましたが、法的整理せざるをえなかったところもありました。そのなかで、こういうやり方はいいなとか、こういうやり方は嫌だなという両面を学ぶ機会が多くあったんですね。そのなかから、僕がやるんだったらこれかなっていうのを多分自分なりに考えていたということはあります。ギブするといっても「自己犠牲に基づいた利他主義」 ではなくて、お客さんがよろこんでくれることは結果としてお店の売上にも返ってくるということです。ギブは報われるんです。