A軍集団麾下第12軍の指揮下に置かれたグデーリアン装甲集団は、南に向かって突進するように命じられた。スダン南方からスイス国境にかけて展開しているフランス軍の背後に回りこみ、これを包囲することが目的だった。

大木毅『戦車将軍グデーリアン 「電撃戦」を演出した男』(KADOKAWA)

6月9日、攻勢を発動したグデーリアン装甲集団の進撃はめざましく、たちまちブザンソンを攻略、およそ一週間後の17日にはもうスイス国境に達していた。あまりの急進ぶりに、軍首脳部が何かの間違いではないかと疑ったほどだった。

「ポンタルリエでスイス国境に着いたと報告すると、ヒトラーは『貴官の報告は誤りで、ポンタイエ・シュル・ソーヌ〔東部フランスの町〕に到達したということだろう』と反問してきた。すぐに『ミスではありません。小官は今、スイス国境のポンタルリエにおります』と回答する。それで、疑り深いOKWも納得した」(『電撃戦』)。

大国フランスを1ヵ月で降伏させる

一方、独仏国境に展開していたドイツC軍集団もマジノ線攻撃を敢行、突破に成功し、6月19日にグデーリアン装甲集団と手をつなぐ。約50万のフランス軍が包囲されたのだ。

この間、6月14日には、無防備都市宣言を出した首都パリにドイツ軍が入城しており、フランス国民の士気は地に落ちていた。6月22日、パリ近郊コンピエーニュの森で独仏の休戦協定が調印される。

ドイツは、第1次世界大戦で4年余の時を費やして、ついに打倒することができなかった大国フランスを、今度は一か月ほどで降したのである。

関連記事
100万人を追い詰めたのに「ダンケルクの奇跡」を許したドイツ軍の事情
敗戦をヒトラーのせいにした「戦車将軍」のウソ
ローマ教皇が「ゾンビの国・日本」に送った言葉
野村克也はなぜ「明智光秀のように死にたい」と話していたか
「麒麟がくる」の"美濃の蝮"斎藤道三はなぜ、油売りから国主になれたのか