「医療が慎重に手助けしたほうがいい呼吸器系の感染症」

ここで、人間は強力な武器を手に入れた。肺炎の原因が細菌である場合には、体外から抗生物質を投与することで、人体がもともと配備している防御部隊とは別に援軍を送り込み、城門の前でうごめいている大軍たちを一気に叩きつぶすことができる。これによって多くの国(命)が救われるようになった。

市原真『どこからが病気なの?』(ちくまプリマー新書)

ただし、大軍が血液の中を縦横無尽に動き回りはじめてしまうと、抗生物質をもってしてもそう簡単には駆逐できない。

全身に強力な抗生物質を投与し、一方で国防部隊がめったやたらと打ちまくるミサイルが周囲を破壊するのを「なだめる」薬も使う必要がある。

また、そうそうあることではないが、原因が特殊なウイルスの場合、抗生物質がそもそも効かない(※新型コロナウイルスによって引き起こされる肺炎のいやなところはここだ)。

すなわち、肺炎と戦うには、かなり緻密で多面的な戦略が必要となる。通常のウイルス血症(かぜ)なら多くの場合は人体の持つ防御部隊におまかせできるが、肺炎にまで達してしまうとそうはいかない。

だからこそ、先ほどの定義が意味を持つ。

肺炎とは、「人間が勝つのに苦労する、あるいはときには負けてしまうこともあるため、医療が慎重に手助けしたほうがいい呼吸器系の感染症」。

初期段階で「かぜ」と「肺炎」を見分ける3つのポイント

さあ、そうなると、私たちとしては、軽症の間に……死に至るほど強力な軍隊が体内に侵入する前に、ごく初期の段階で、体にとりついたやつらがヤバいやつなのか、たいしたことないやつらなのかを見極めたい。その目安はあるか?

【かぜ(放っておいたら治る感染症)の特徴】
1.過去に経験したことがある(つまり治した経験がある)
2.複数の場所に同時に症状が出ている(病原体がすでに全身を回っている)
3.(2があるにもかかわらず)症状が軽い

まあこの辺を目安にするといいだろう(最近、みんなが新型コロナウイルスに騒ぐ理由のひとつは、1が当てはまらないからである)。

普通のかぜは鼻水、鼻づまり、のどの痛み、せき、微熱、あるいは腹痛とか頭痛といった複数の症状を同時に出すわけだが、病原体が全身を巡っている(=ウイルスが全身を回っている)にもかかわらず症状が軽いならば、それはきっと細菌による重症感染症ではないので、たいてい体内の防御部隊にまかせておけばいい。

そもそもウイルスに抗生物質は全く効かないから、この時点で安静にしている以外の対処法はない。