米国との対決を前にした「備蓄」

ロシアは米国債売却の理由として、外貨準備の多様化を挙げている。しかし、その背景には、米国との対決姿勢を強める前に、金融的なつながりを遮断しておきたいという明確な理由があるものと思われる。

ちなみにロシアは中国、豪州に次いで世界第3位の産金国でもある。国内生産は順調であり、これらも金保有高の増加につながっている面があろう。

近年、ロシアは着実に金保有高を増やしているが、国内での生産量の大半がロシア連邦中央銀行によって保有されている可能性がある。欧米との関係悪化もあり、金融面での自立が必要であることを考えれば、ロシアが金保有高を増やすのは当然といえるわけである。

国際社会でのロシアの企てや、それに対する欧米の圧力などを考慮すれば、百戦錬磨のプーチン大統領がそれに対する備えを怠ることなど、ありえないだろう。その意味でも、ロシアの金保有高は確実に増えることになろう。

基軸通貨の発行国である米国は、自由自在に米ドルを操ることができる。しかし、ロシアはルーブルが米ドルに対して不安定な動きし、米国の思惑に翻弄されないようにする必要がある。このような事態を避けるためにも、ロシアにとって金保有は最高のヘッジになるわけである。

自国資産の保全をかけた「ゴールド・ウォー」

中国とロシアという、米国に抗する軍事大国は、今後ますます米国との対決姿勢を強めることになろう。いまはそれぞれが自制しながら、絶妙のバランスをもって「大人の付き合い」をしているが、一方でロシアと中国は自国の資産・財産の保全も忘れていない。

世界大戦で勝利し、世界の基軸通貨を米ドルとすることに成功したことで、世界の経済・金融を自在に操ることができるようにした米国の策略は見事というしかない。その米国に対抗しようとして多くの国が立ち向かったが、経済面・金融面はもちろん、軍事面でも勝利を収めることができた国は一つもない。

この歴史を変えるような国が果たして出てくるのか。中国とロシアはその筆頭候補であろう。

しかし現状では、事は両国の目論見通りには進んでいない。その準備の完了もまだかなり遠い先であり、時間を稼ぎながら着々と準備を進めているものと思われる。その間にドルを自由自在に動かされることで、ドルの価値が変動し、自国通貨の価値が思わぬ方向に動かれるときわめて厄介な状況を招くことになる。

このような事態を避けるためにも、世界で共通の価値を持つ金を保有しておくことは、両国にとってきわめて重要な意味がある。

ロシアと中国は資産保全のために着実に金購入を増やすだろうが、ロシアの外貨準備に占める金の割合は、2019年末で20%だが、中国にいたってはわずか3%である。ちなみに、ドイツは73%、イタリアは68%、フランスは63%と、きわめて高い比率にある。外貨準備に占める金保有高を欧州の主要国並みの比率に引き上げようとすれば、とりわけ中国は今後も相当量の金を購入する必要がある。