日露戦争に勝利した日本は、朝鮮(大韓帝国)を保護国にしました。日本をずっと自分たちより下に見てきた朝鮮にとって、日本の保護国となることは、到底納得できるものではありません。そこで朝鮮は日本の不当性を国際社会に訴えようとしますが、取り上げてもらえず、やがて日本は朝鮮を支配するための統監府を設置しました。

さらに、統監の伊藤博文が暗殺されると、日本は朝鮮を併合。その後も三・一独立運動などの抵抗が続きました。日本としては、心血を注いで植民地経営をしたつもりでしょうが、朝鮮半島には何百年と続いてきた世界観・対日観があります。朝鮮半島の人々、とりわけ知識人に、基本的には恨みしか残さなかったということです。

なぜ文大統領は天皇に意見するのか

こうした外交史は、現在の朝鮮半島に何を及ぼしているのでしょうか。

文在寅第19代韓国大統領。進歩派で、北朝鮮に対しては融和路線を貫くが、日本に対して強硬姿勢が目立つ。(時事通信フォト=写真)

その地政学的な位置づけは現在も変わっていません。南北に分断されている現在の姿は、国内の党派争いや19世紀の「属国」と「自主」、さらにその前の「事大」と「交隣」が、北と南に整理されて、異なった政府・国家になった状態と言えます。

韓国の現在の左派政権は、南で一党に純化しようとしていた軍事政権に抵抗していた勢力です。片や右派は軍事政権を引き継いだ勢力であり、その2党派が争っているのが現在の韓国政治です。これを「民主化」と呼んでいますが、いまやそれ自体が、かつての朱子学に代わるイデオロギーになりました。韓国では、自らの正義を達成するために、邪悪な人間を政権交代で引きずり下ろすことが民主政治だと考えているフシがあります。これは王朝時代、朱子学の正義をめぐって繰り返された党派争いそのままの構図です。

韓国の文在寅大統領が元徴用工問題で「日本は謙虚になるべき」と発言したり、天皇に意見したりするのは、日本を下に見ているからこそできることであり、これも王朝時代の世界観・対日観そのままです。こうした見方は文大統領に限ったことではなく、韓国のエリート層に共通しています。その理由として植民地化に対する反発を指摘する人がいますが、実は何百年も前から続いてきたことなのです。

「小中華」である彼らから見れば、日本もアメリカも野蛮です。逆に中国に対しては、いろいろひどい扱いを受けても文句を言わずに従う傾向があります。それは、中国を好きだというわけではありません。かつての清朝に対してそうだったように、面従腹背ということです。現在の韓国が好きなのは北朝鮮です。それは民族意識とも言えますが、むしろ歴史的な「小中華」思想の表れとみたほうがよいでしょう。

外交史を振り返ってみると、現在の韓国が取っている態度・行動は、基本的に過去から変わっていないということがよくわかります。それはこの先も、大きく変わりそうもないので、以上のような歴史は、今後の東アジア情勢を見るうえで、有力な手がかりになるのではないでしょうか。

(構成=増田忠英 写真=Getty Images、時事通信フォト)
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