月2万円くらいしか売り上げがなく負債は2億8000万円

私が「出前館」を引き受けたときも同じでした。ネットを窓口に出前を仲介する出前館のサービスは、大阪でスタートしたばかりで、当時月2万円くらいしか売り上げがなかった。負債は2億8000万円もあった。誰もが反対しました。ビジネスとして成立してないんだから、それが当然ですよね。

だけど私はそのうまくいっていないところを、なんとかできるんじゃないかと思った。いろいろアイデアが湧いてきたわけです。

当時私は自分で企画会社をやっていて、業績はよかったんです。その仕事をやめて、そのうえ多額の負債まで背負うことになる。リスクを冷静に計算したらできなかったと思います。

けれど出前館の事業は、本当にブレークしたらものすごく大きくなる可能性がある。外食市場が縮小に向かい宅配市場が伸びるといわれているなかで、社会はますますIT化が進んでいく。出前館はその2つの変化に合致していて、お店にもユーザーにも絶対に喜ばれる。うまくブラッシュアップできれば、世の中に支持されるのは間違いない。今は売り上げが月2万円でも、200億円、2兆円の会社になる可能性がある。

自分の会社はその時点で年商3000万円くらい。それを3500万円、4000万円にすることはできるだろうけど、スケール感がぜんぜん違うわけです。それで最終的には、お金が返せなくても殺されるわけではない、と腹をくくって引き受けることにしました。将来性と面白みに懸けたんです。

桶狭間の後の論功行賞で、義元を討ち取った毛利良勝より義元の居場所を伝えた簗田政綱を、信長が高く評価したという話があります。歴史家の間には異説もあるようですが、私は絶対そうだったろうと思う。義元の首を取るという華々しい武功より、発想を変えるような重要な情報とかアイデアを持った人を信長は評価した。あの戦いの勝利そのものより、そこが信長の優れたところだと思います。

戦いの前にもし多数決を取っていたら、そういうことは起こらなかったわけです。籠城しようということになって、みんなで清洲城に籠もっていたかもしれない。その後の天下人・信長は、おそらくなかったですよね。

私も多数決が嫌いです。多数決で決めれば、みんなが納得するかもしれないけれど、それでは大きな成功はありえない。たとえ100人が反対してもやる、という心構えがリーダーには必要で、そのためには情報やアイデアが何より重要です。信長はそのことを、よく知っていたのだと思います。