財政拡張もポンド安につながる恐れ

インフレを収束させるためには財政と金融の両面で引き締め策を行うことが必要となるが、その結果、景気は一時的にせよ悪化することになる。それができない限り、インフレ高と通貨安から脱することはできない。とはいえ、EU離脱のアピールに躍起となるジョンソン政権に、そうした有権者に不評な引き締め策を断行する勇気などないだろう。

それどころかジョンソン政権は、EU離脱を正当化するために財政拡張に努めようとしている。3月11日に発表予定の2020年度予算は、単年度の財政赤字をGDPの3%以内とするEUの財政ルールにとらわれる必要がない。EU離脱を正当化したいジョンソン政権は公共事業の増額を盛り込んだ大型予算を発表する見込みだ。

英国のように経常収支の赤字が定着している国が財政赤字を膨らませることは、本質的には通貨安の要因になるはずである。為替は水物であるため、財政出動で景気が短期的に浮揚することへの期待から、ポンド相場が上昇する可能性もある。とはいえ、そうした流れは長くは続かず、一過性である可能性が非常に高い。

ジョンソン首相や離脱推進派は、EU離脱という政治的な成果をあくまで重視している。そのためには、経済的な痛みを負うことなど仕方がないと考えているのだろう。とはいえ英国の経済の事情を考えると、最も優先されるべき通貨の安定をジョンソン政権は放棄しているわけである。その痛みに英国はどれだけ耐えられるだろうか。

本末転倒が予想されるポンドの為替レート

移民を排斥した結果、生産性が一段と伸び悩み、それがポンド安を促すとしたら、結局のところ離脱推進派の生活は豊かになるどころか、なおさら悪化することになる。こうした本末転倒な事態に、英国はこれから直面することになる。すでに産業界は強い懸念を示しているが、多くの英国民にはまだその実感はないようだ。

経常収支が赤字である英経済にとって、本来なら通貨の安定こそが、安定的な成長の前提条件となる。英国の場合、そもそもの特徴として、ほかの主要国と比べて製造業が弱い。加えて、EU離脱を嫌った多国籍企業が生産拠点を大陸に移管する動きを強めている。したがってポンド安で輸出が刺激されても、景気浮揚効果は限定的だ。

それに、確かに英国はEUの通貨ユーロに参加していなかったが、ポンドの為替レートはEU経済との兼ね合いで決まっていた性格も強い。EU離脱の是非を問う国民投票で離脱派が勝利し、ポンドが暴落したことはその端的な表れだ。英経済が高成長軌道に乗ればポンド高が進むだろうが、そうした展望はまず描き難い。

EU離脱で英国の通貨ポンドの為替レートはどのように変わっていくのだろうか、推移をウオッチしていきたい。

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