カンボジアでの大規模調査で分かったこと

今回の学習アプリを使った独自調査では、カンボジアの首都プノンペン周辺にある5つの小学校に通う小学1~4年生1600人を対象に行った。学習アプリを用いるクラスと、アプリを用いないクラスに生徒をランダムに振り分け、3カ月にわたって授業を行い、アプリが生徒の「学力」と「学習意欲」に与えた効果を検証した(ランダム化比較試験)。

学習アプリは、株式会社花まるラボ(現・ワンダーラボ株式会社)から提供された小学生向けの「Think!Think!」という思考力育成アプリを使用した。このアプリの特徴は、利用者である児童一人ひとりの思考力に合わせた難易度の出題ができるという点だ。

(筆者作成)

調査の結果、学習アプリを用いたクラスの生徒の学力テストやIQ(知能指数)テストの点数は大きく向上した。具体的には、学習アプリを用いたクラスの生徒は、アプリを用いなかったクラスの生徒と比べて、全国学力テスト(NAT)の結果は偏差値が約6.7上昇した。

代表的な国際学力調査の一つである国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)の結果も、偏差値6.0、IQスコアは約9ポイント高くなった。学習アプリは学力向上にとって有効なツールだということが改めて確認できる。

「学力の底上げ」と「二極化解消」に効果的

しかし、私が今回の調査で強調したいのは、もともと学習意欲の低い生徒たちにより大きなメリットがあるという点が明らかになったことだ。今回の調査では、あらかじめ生徒の学習意欲を心理学の方法で計測し、意欲が高いグループと低いグループに分けてアプリの効果を検証した結論だ。

私たちは、「IQ」「全国学力テスト」「学習意欲」の3指標について、意欲の高いグループと低いグループの3カ月間の変化を比較した。すると、意欲の低いグループは、意欲の高いグループに比べて「学習意欲」と「全国学力テスト」の点数により大きな上昇が確認できた。意欲が高いグループにより大きな効果が出たのは「IQ」だった(図表4)。

学習アプリは、学習意欲の低い生徒のテストの点数・学習意欲の向上により大きな効果を発揮する(筆者作成)

「IQ」も「学力テスト」も賢さを表す指標だが、「IQ」はより純粋に認知能力(いわゆる地頭)を計測しているが、「学力テスト」は地頭だけでなくテストで問題を解くスキルや事前に準備したかなどいくつかの要因が合わさった結果だと言える。つまり、学習アプリを活用することで、意欲の低い生徒たちのモチベーションを高めて学力の底上げを促すことができる可能性を示していると言えよう。