学習アプリの効果検証は未開拓分野

しかし、こうした新技術が「二極化」を拡大させる恐れもある。そうなれば、まさに本末転倒。勉強する意欲がないのび太くんグループの学力や学習意欲をいかに引き上げることができるかが課題となろう。

ここで、エドテックがどのように効果があるのか先行研究を紹介したい。もともとの「学力」の高さとエドテックの効果の関係性についての研究はいくつか存在するが、分析結果のコンセンサスは確立していない。また、もともとの「学習意欲」の差がどのように影響するかは、これまであまり研究されてこなかった。

エクアドルでマス・テクノロギアという数学ソフトウェアを用いた研究では、高い成績を修めている生徒にエドテックの効果があったと結論付けられた(Carrillo et al. 2011)。一方で、成績が低い生徒にエドテックの効果が大きく現れたとするインドの100以上の小学校を対象とした研究もある(Linden. 2008)。

学習アプリの効果を明らかにするためには、アプリを用いて学習をする生徒と、紙と鉛筆を用いた通常の授業で学習する生徒をランダムにわけて同時に比較することが望ましい。

こうした実験を日本国内で行うことは難しいことから、慶應義塾大学総合政策学部の中室牧子研究室は、パズルや迷路、図形などを用いた、思考力育成アプリの開発を手がける「花まるラボ」の協力を得て、2018年4月から8月にカンボジアの小学生約1600人を対象にした大規模な調査を行い、学習アプリの効果について検証した。

日本よりも深刻なカンボジアの学力格差、教員不足

カンボジアは東南アジアで最も貧しい国だ。小学校に通っているものの、生活に最低限必要な読み書きや計算ができない生徒が多い。カンボジアの有力紙プノンペン・ポストも2018年に、「小学2年生の30%が単語の読みができない」と報じた。世界銀行はこの事態を「学習危機だ」と警鐘を鳴らす。

この学習危機の要因は、学力格差の拡大に加えて教員の不足が挙げられる。カンボジアの初等教育は、教員1人あたりの生徒数が約44人で、世界各国の平均(約24人)と比べて担当する生徒数がかなり多い。このため、生徒一人ひとりに目が行き届かなくなることが問題視されている。

教員不足は他の途上国でも見られる問題だ。世界銀行の資料によると、多くの途上国で、実際の授業時間が規定された授業時間を下回っていることがわかる(図表1)。

開発途上国では、本来教師が授業を行うべき時間の内の多くの割合が失われている
出典:世界銀行
開発途上国では、本来教師が授業を行うべき時間の内の多くの割合が失われている

所得の低い国、特にサハラ砂漠以南に位置するアフリカ諸国を中心に、学校に通っているものの最低限の読み書き計算の能力が持たない生徒の数が目立っている(図表2)。途上国の教育の質の低さがうかがえる。

青色が算数、水色が読みを示す
出典:世界銀行
青色が算数、水色が読みを示す