規模だけではない。病院に加え、バイオメディカル研究所や医科大学やがんセンターが付置され、最先端医療技術の追求を目指している点。医師や医療研究者が世界中から集められている点。最先端医療を実現すべく最新の機器・設備が備えられている点。東洋と西洋の医学・医療の融合を狙っている点。さらには、がん治療の中心となる「がんセンター」を開設し、世界から患者を集め治療するメディカルツーリズムを実現しつつある点、……。質的な展開も目を引く。

日本でも、サムスン電子と同じくらいの大手企業で、病院を設立した企業は少なくない。それらの病院は、地域医療への貢献や企業の優れたマネジメント手法の病院経営への導入を通じて、医療界に大きい貢献をしている。だが、世界最先端の高度医療への基礎からの取り組みや、世界を相手としたツーリズムの展開といった点では、一歩も二歩も譲る。

ここで、日韓の企業の取り組みの是非を論じたいわけではない。そもそも、サムスン電子が、IMF危機の下、事業の絞り込みを余儀なくされ、医療事業への積極的な取り組みを選んだという外的事情の違いが大きい。それぞれに事情は大きく違っている。

論じたいことは、最初にどういう志を抱き、どういう絵を描いたかによって、その後の展開が大きく違ってくることである。「環境を見る視線が、すべての現実の出発点になる」。そのことを強調するのはレヴィ=ストロースである。あらためて勉強をし直しておこう。