高学歴の人のほうが極端なスキーマに陥りやすい
政治の世界では、実際には、そんな大規模な実験は難しいだろうが、仕事や学習面では、スキーマから脱却することで、いろいろなことが試せる。
これまで学んできたことや、経験的に正しいと信じてきたことが、今の時代には合わなくなっていることは珍しいことではないだろう。そうした際に、スキーマに支配されていると、新たな考えを受け入れることは困難であるし、それを試す気にはならない。
問題は、高学歴の人のほうがこれまで学んできたことが正しいと思い込みやすく、スキーマにとらわれやすいことだ。また、これまで仕事でうまくやってこられた人ほど、これまでのやり方や経験則が正しいというスキーマにとらわれやすい。
いわば、これまで極めて賢かった人がいつの間にか頭を柔軟に働かせられない「バカ」になってしまうのだ。
本来賢い医師がなぜか「バカ」になってしまう理由
スキーマが強いと経験から学べないことも大きな問題だ。たとえば「東大卒は性格が悪い」というスキーマを持つ人が、たまたま飲み屋で出会った東大卒と意気投合しても、スキーマの働きによって「これは例外だ」という情報の処理の仕方をしてしまう。
その後、同じく東大卒の人に親切にされても、「俺は運がいい。例外に2件続いてあたった」と考えてしまう。その人が生まれてこの方東大卒に2人しか会ったことがなくても、そのようなスキーマは変わらないのだ。
医学の世界でも、「コレステロールが高めの人のほうが長生きする」というのは、世界中の疫学調査で明らかにされており、やや太め(BMI25前後)が長生きするというのも多くの国の疫学調査ですでに認められている。
ところが、こうした客観的事実を受け入れる医学者は少なく、「調査の仕方が悪かった」というような批判をする。もちろん、これとは逆に、新たな知見を無批判に受け入れるというスキーマを持つ人もいるが、自分と異なる意見を認める姿勢をもったり、頭ごなしに否定せずに試してみたりするのが学者や医師という職業に必要なスタンスではないだろうか。
仕事や勉強がうまくいっていないとき(安倍氏の問題は経済運営がうまくいっていないことを認めないことだと私は考える)、「自分がなんらかのスキーマにとらわれ、現時点では不適応になったやり方や思考を続けていないか」と自己チェックする姿勢を持てるかどうか。その姿勢を常に忘れないことが、本来、賢い人間や仕事ができる人間がバカになってしまうことを防ぐと私は信じている。