キーエンスはいち早く世界的な時流をとらえていた

キーエンスの業績は、2019年3月期まで7期続けて最高益を達成してきた。利益率も高い。営業利益率は50%を超え、国内のライバル企業の収益性を大きく上回っている。

好調な業績の背景には、まず、同社を取り巻く経済環境がある。

世界全体で人手不足が深刻化している。労働力不足を補うために、米国や中国、わが国など世界各国の企業は、生産設備などの省人化や自動化を強化している。その需要を取り込んで、キーエンスは業績を拡大してきた。人手不足の問題は今後も続くだろう。

また、キーエンスがいち早く、自前の生産設備を持たない、いわゆる「ファブレス経営」を導入したことも重要なファクターだ。

1974年の創業以来、キーエンスはファブレス経営を貫いている。ファブレスとは、自社で生産設備を持たず、生産のすべて、あるいは大半を外部に委託する経営体制をいう。それにより、キーエンスはFA関連のソフトウェアの研究開発や設計などの得意分野に経営資源を効率的に、かつ迅速に再配分し、変化に適応しつつ、収益力・収益率を高めてきた。

米アップルの経営を確認すると、ファブレス体制の意義がよくわかる。アップルは台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業にiPhoneなどの生産を委託している。

アップルは生産プロセスを切りはなし、ソフトウェア開発やブランディングに注力し、高付加価値のプロダクトを生み出してきた。それが、アップルの企業価値の増加を支えている。一方、ホンハイは中国の傘下企業であるフォックスコンにてアップルの製品を生産し、成長してきた。

このように世界各国で分業体制の確立を重視し、自社の強みとする分野への選択と集中を進める企業が増えている。キーエンスはいち早く世界的な時流をとらえ、効率的に経営資源を再配分し、高収益体制を実現してきたといえる。

歴代社長も「40代半ば」

2019年度4~6月期、キーエンスは第1四半期決算として9年ぶりに最終減益に落ち込んだ。また本年度上期の純利益は前年同期比13%減少だった。

上期の業績公表と同じタイミングで同社は社長交代を発表した。

背景には、前回の社長就任から一定期間が経過したことに加え、最高益の更新がストップしたという変化を受け止め、若い人にさらにチャレンジしてもらい、さらなる成長を追求してもらいたいとの考えなどがありそうだ。キーエンスは世界経済が大きく変わりつつあるという認識を強め、それに対応する体制を整えようとしているといってもよい。

創業者である滝崎武光氏以降、キーエンスは40代半ばの人物を歴代の社長に指名してきた。40代半ばといえば、業務に習熟し、さらなる飛躍を目指してエネルギーがほとばしりはじめる時期だ。

その世代の人物に経営を任せることによって、キーエンスは組織全体に刺激を与え、過去の成功体験に浸るのではなく、常に新しいことにチャレンジする風土を高めようとしてきたと考えられる。