現状維持で成長はおぼつかないという危機感
それは、事業環境は常に変化し、それに対応しなければならないという発想に基づいているのだろう。現状維持で成長はおぼつかないという危機感といってもよい。実際、世界経済の変化するスピードは加速している。中国経済は成長の限界を迎えた。
また、米中貿易摩擦の影響などを受け、世界全体でサプライチェーンが混乱している。その中で、キーエンスでは自社のノウハウを基にしたデータ分析ソフトウェアを開発し、他企業の営業や商品開発などの効率化をサポートするシステムの外販に着手しはじめた。
それでも、本年度上期、キーエンスは減益を回避できなかった。この展開を受け、キーエンスの経営陣は、世界経済の動きに対応するためには、これまでとはちがう発想、価値観を経営に反映させ、抜本的に新しい取り組みを進めなければならないという見解に達した可能性がある。それが社長交代に至った大きな要因と考えられる。
高収益・高収入の体制を維持できるか
新しい経営体制のもと、キーエンスには成長力を高め、高収益・高収入の体制を維持・強化することが求められる。新しい経営トップには、FA関連のソフトウェア企業としてのビジネスモデルにデータ分析などの要素を付加し、新しいビジネスモデルの構築を目指すことが求められるだろう。
今後の世界経済の展開を考えた時、ソフトウェア開発など知識集約的な産業への需要も続くはずだ。
中国では生産年齢人口が減少に転じ、労働コストが上昇している。先行きは不透明だが、キーエンスがFAなどに関するソフトウェア開発を中心に競争力を高めることはできるだろう。これまでの業績、利益率の高さなどを踏まえれば、同社にはその力も備わっているとみられる。
今後、世界経済の変化のスピードは、さらに加速する可能性が高い。米中では、量子コンピューターなど次世代の情報処理テクノロジーの開発が急ピッチで進んでいる。中国では、ファーウェイやアリババが高性能のICチップの生産能力を増強している。
数年後には、5G通信規格がネットワークに接続されるデバイス(モノ)の数に耐えられなくなると考えるITの専門家もいる。キーエンスはこうした変化に対応していかなければならない。