スケジュールに落とし込む

この時点で、夏フェスの開催までに残された時間は2カ月半ほどだった。蒼は、絶対にやらないといけないこと、その次に重要となりそうなことを、優先順位を考えながら書き出してみた。そしてそれらの活動を、どの時点までに完了しておかないと、運営が回らなくなるかを考えた。

マーケティング・ミックスの展開は、順序立てて行わないといけないことが見えてきた。

こうして夏フェスに向けた運営のスケジュールができあがった。やるべきことは、思いのほか多かった。急いでやらないといけないことは何かも見えてきた。

蒼は、製品、価格、流通、プロモーションの担当をバンドのメンバーたちに割り振り、引き受けてもらった。マーケティング・ミックスを書き出してみることで、夏フェスの運営のすべてを蒼が一人で行うことは無理だと気づいたのだ。

全員でひとつのボールを追いかけ回す状態を脱し、連携が高まったことで、プロジェクトの進行速度は一気に上向いた。

観察から販売不振の原因を学ぶ

さらに知子のメモには、次のようなことも書かれていた。

マーケティングでは、顧客を中心に考える一方で、取引先への対応、そして自組織内の調整への目配りも欠かしてはならない。マーケティングの原理は取引だと言われるのは、こうした複眼思考が、企業の市場対応のカギとなるからである。

蒼たちの夏フェスの場合は、この取引先への対応とは、ライブハウスや学校への連絡となりそうだった。自組織への対応は、他の出演バンドなどとの調整だろう。蒼は、これらの活動もスケジュールに取り入れた。

知子がMBAのある授業で、「実験と観察が大切」と聞いてきたことも役に立った。

この時期、蒼たちは、チケットを発売したものの販売不振に直面していた。結局チケットの料金は1人500円、セット割引だと1人400円ということに決着していた。学校内にポスターを貼らせてもらい、主演者たちが友達に声をかけるやり方で、販売活動を始めた。

「思っていたように売れていかない。なぜだろう」

蒼たちは、知子の話を思い出し、観察をしてみることにした。

メンバーが授業と授業の合間の休み時間に、夏フェスの勧誘を行うと、反応は悪くないのだ。「行く行く」と言ってもらえる。しかし「また後で」と言われてしまい、購入には至らない。こんな空振りが繰り返されていた。

昼休みは、メンバーの貴重な話し合いの時間だったので、この時間帯の販売活動は行っていなかった。