ゲノム編集は遺伝子組換えとは異なる技術

ゲノム編集と遺伝子組換えは、説明にDNAや遺伝子という言葉が登場するためか、遺伝子組換えに反対する団体がゲノム編集についても反対運動を展開しているせいなのか、同じようなものと考える人が少なくありません。しかし、2つは異なる品種改良技術です。

20年ほど前に実用化された遺伝子組換えは、新しい遺伝子を外から導入します。金の粒に遺伝子を乗せて細胞に打ち込んだり、微生物の力を借りて入れ込んだりして遺伝子をゲノム中に“定着”させ、生物にまったく新しい性質を付加します。

一方、ゲノム編集で現在進められている品種改良は、DNAの狙ったところを切った後は自然にお任せ。新しい遺伝子を入れるわけではありません。

植物のゲノム編集では、植物に細胞壁がありDNAを切る酵素などを直接注入できないため、酵素などの遺伝子を遺伝子組換え技術により導入し、働かせます。そのため、一時的に遺伝子組換え植物となりますが、DNAの狙ったところを切った後は導入した遺伝子などは取り除き残っていません。

遺伝子組換え食品は、内閣府食品安全委員会の安全性評価などを経て、従来の食品と同等に安全とされたものだけが認められ、販売流通しています。しかし、不安を抱いている人はいて、そのイメージをゲノム編集にも重ね誤解する人が少なくありません。

たった1年から1年半ほどで商用化できるスピーディーさ

従来の品種改良は、たくさんの遺伝子に変異をかけ、その次に不要な変異を捨てる、という方法なので、商用化までに数年から数十年がかかります。

遺伝子組換えは新しい遺伝子を外から導入しますが、ゲノムのどこに入るかまでは操作できません。そのため、ゲノムのよい位置に外来遺伝子が入り込みうまく働くようになった個体を選ぶのに手間がかかります。一般に、数万の個体に遺伝子組換え操作をして、そのうちの1つが商用化につながる程度だと言われています。

一方、ゲノム編集はスピードが全く異なり、1年から1年半ほどで商用化にこぎつけられるほどです。人口増加を見据え食糧増産が重視され、気候変動対策としての品種改良も急がなければならない中で、時間と手間の節約は大きな利点です。