そんな男のために、誰が身を引くか

西田は岡村が自ら会頭を辞任することを期待したが、岡村にその気はなかった。岡村からすれば、自分から西室が取り上げた次期社長の任命権で選ばれたのが西田である。「そんな男のために、誰が身を引くか」という気持ちだっただろう。西田は西室に岡村説得を期待したが、西田が自分を差し置いて経団連会長になることに、「嫉妬の人」が喜ぶはずもない。結局、西田は外され、御手洗の次の経団連会長には住友化学会長の米倉弘昌が就任した。

次は、佐々木が社長在任中の13年に経済財政諮問会議の議員となり、経団連の副会長にも選ばれ、次期経団連会長候補と目されるようになる。

面白くないのは西田である。自分が選んだ後任が、自分を差し置いて経団連会長になろうというのだから。WHの経営がうまくいかなくなると、西田は手のひらを返して、佐々木を「単なる原子力バカ」とくさすようになった。

こうなると佐々木も面白くない。もともと部下を怒鳴りつける声で会議室の窓ガラスが震えたというパワハラ体質である。鬱憤晴らしに西田の子飼いの役員を怒鳴りつけ、その役員は会長室の西田に言いつけに行く。会長と社長の関係はたちまち険悪になった。

佐々木は経団連副会長となった13年6月、東芝社長を退任して副会長となった。後任社長は資材部出身の田中久雄である。ところが田中新社長就任の記者会見の場で、会長の西田は「東芝をもう1度、成長軌道に乗せてほしい」と、佐々木の経営が失敗であったかのような言い回し。佐々木は顔色を変え、「業績を回復し、成長軌道に乗せる私の役割は果たした」と、西田の経営が失敗であったかのように反論。会見後の個別取材でも、いがみ合いは続いた。

東芝経営陣の内紛はこうして世に知れ渡り、西田も佐々木も経団連会長候補から外れた。それでも佐々木は次のチャンスがあるかと思われたが、15年1月、決定的な出来事が起きる。証券取引等監視委員会(SEC)への相次ぐ内部告発である。1件目は佐々木の出身である社会インフラ事業部門で、2件目は西田の古巣であるパソコン・テレビ事業でそれぞれ利益の水増しがあったというもの。佐々木を狙って西田側が告発し、佐々木側が西田を刺し返した――としか思えない。

この2つの内部告発によって、それまで隠されていた東芝の粉飾決算が公になる。結果、西田も佐々木もその年のうちにすべての公職と東芝の役職を辞任せざるをえなくなった。西田は17年、失意のうちに心筋梗塞で死去した。

西田、佐々木ら経営陣は地位をめぐって互いに嫉妬し、足を引っ張り合って東芝を破綻に向かわせ、自らも破滅への道を突き進んだのだ。

(構成=久保田正志)
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