選手たちから批判を受ければ、IOCの立場がなくなる

陸上世界選手権の女子マラソンは、初日の27日に行われた。夜中のレースにもかかわらず、気温と湿度が異常に高く、出走68人のうち28人が途中で棄権した。完走率は58.8パーセントと過去最低だった。マズロナク選手は優勝候補の1人だったが、結果は5位だった。

ドーハの陸上世界選手権を視察していたIOCのバッハ会長は、マズロナク選手の「敬意がない」という批判の言葉に強いショックを受け、東京五輪で同様の事態が起きて選手たちから批判を受ければ、今度はIOCの立場がなくなると考えたのだろう。

「合意なき決定」は“政治家・小池百合子”らしい発言

11月1日午後の4者協議。IOCのジョン・コーツ調整委員長、橋本聖子五輪相、大会組織委員会の森喜朗会長らが出席するなか、小池知事はこう話した。

「現在も東京で実施することがベストだということは、いささかも変わっていない」
「都としては同意できないが、IOCの決定は防げない。あえて申し上げるなら合意なき決定です」

会場変更の権限はIOC側にある。都がIOCと結んだ開催都市契約で、五輪開催の最終的決定権はIOCにあると決められているからだ。札幌への変更は決定事項で、今回の4者協議はその決定を追認する場にすぎなかった。

それにしても「合意なき決定」とは、実に“政治家・小池百合子”らしい発言である。東京でのマラソンと競歩の開催準備を進めてきた東京五輪関係者や、開催を楽しみにしてきた多くの都民らを納得させる言葉だ。小池知事の苦悩が伝わってくる。

IOC側から譲歩を引き出した小池知事の力量

東京都はIOCとの折衝の結果、「都の追加経費の負担なし」など4項目の条件付きで妥結し、さらには東京五輪後にIOCとともに東京都でマラソン大会を開くということも決まった。

IOCはトップの会長が「決めた」という言葉を、平気で最初から使うような組織だ。そんな権威の塊に対し、「都民は納得しない」と冷静に訴え続け、IOC側から見事に譲歩を引き出した小池知事の政治家としての力量は評価されるべきだろう。