全国紙の社説すべてが「札幌変更」を肯定していた
開催地の札幌変更が浮上した直後の新聞各紙の社説を読み比べて驚いたことがある。全国紙の社説がすべて事前にすり合わせたかのようにアスリートファーストを理由に、札幌変更を肯定していた。
沙鴎一歩のようにへそを曲げる必要はないが、社説が反骨精神を失っては寂しくなる。新聞各社は東京五輪を金銭的に支えるスポンサーでもある。そのスポンサーとしての主張もほしかった。
札幌変更が浮上した直後の社説の見出しを見ただけでも、そのことはよく分かる。各社説の見出しを並べてみよう。
「マラソン札幌案 選手の健康優先で臨め」(10月18日付朝日社説)
「五輪マラソン札幌に 選手の安全優先すべきだ」(10月18日付毎日社説)
「札幌開催は選手第一で準備を」(10月18日付日経社説)
「五輪マラソン 札幌変更もやむをえまい」(10月18日付産経社説)
「五輪マラソン 選手の健康考えた『札幌開催』」(10月20日付読売社説)
アスリートファーストはまるで「水戸黄門の印籠」だ
大半の社説が、「選手の健康」「選手の安全」「選手第一」という言葉を前に、IOCの突然の発表を強くは批判しなかった。このアスリートファーストは、まさに“水戸黄門の印籠”である。
突然の開催地変更で一番困ったのは、東京に焦点を合わせてトレーニングを積んできた選手たちや選手らを支える現場だ。それを思うと、妙な話である。
たとえば産経社説(主張)は「やむをえまい」とまで言い切っている。ここでは産経社説らしく、IOCに強く反発してほしかった。
ただ、産経新聞は10月18日付の後、4者協議(トップ級会談)前の30日付と、同協議で札幌に正式決定した11月1日の翌日付の計2回、社説に取り上げており、ここではIOCを批判している。言い方を変えれば、産経社説らしさを取り戻している。