このような現地化、グローバル化のステップまで中国企業は達していない。にもかかわらず、経済や貿易の構造がわかっていないトランプ大統領は、日本モデルを当てはめて中国をぶっ叩いている。だから中国も気の毒で、そもそも中国企業がアメリカに直接売り込んだことはないし、雇用を奪っているわけでもないのに叩かれているのだ。雇用を守りたければ、アメリカが自分で調整すればいい。発注しているアメリカ企業を制裁するしかないのだ。私が中国の外交官ならそうやって反論するが、残念ながら中国は中国で世界の貿易や経済の構造を知らない。もちろん日本のたどった歴史も知らない。

中国の企業には作れない

トランプ大統領に「iPhoneをアメリカで作れ!」と言われても、中国の企業には作れないのである。中国・成都にある工場で、最盛期には100万人を雇用してiPhoneを作っているのはフォックスコン(台湾の鴻海科技集団)だが、アメリカに生産を移そうにも部品は現地調達できないし、アメリカで100万人の雇用を確保できるわけがない。スマホの組み立て工場で働く労働者なんて、現代のアメリカでは逆立ちしたって中国と同じようには集まらないのだ。

近代以降、産業構造は地球規模で最適化してきた。もはやアメリカは、アパレルや工業製品を作る最適地ではなくなっている。そういう産業構造の変化というものが、トランプ大統領の頭の中には入っていない。だから二言目には「アメリカで作れ」と理不尽なことを言うわけだ。

大統領選を控えて「仮想敵」をつくって選挙戦を盛り上げたいトランプ大統領は、今後も中国に圧力をかけて貿易戦争を過剰に演出するだろう。中国側は貿易交渉に応じるふりをしながら、トランプ大統領のディールに本気で乗ることはない。“皇帝習近平”の腹の底は「トランプ無視」。最長でもあと5年ほど待っていれば、トランプという「特異」なリーダーは交渉相手ではなくなるからだ。

(構成=小川 剛 写真=AFP/時事通信フォト)
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