EU側にはいつまでも事態を放置する余裕はない
下院選挙で小選挙区制を採用している英国の場合、野党の支持が割れることは与党への追い風となる。分配を重視する労働党と成長を重視する自民党では選挙協力が成立する展望も描けず、保守党が単独与党に復する素地は整いつつある。そして保守党が過半数を回復すれば、DUPという「ノイズ」も取り去ることができる。
ジョンソン首相としても、選挙に勝利して新協定に基づく離脱を円滑に実現することは非常にきれいな筋書きとなる。いつまでもこの問題を放置するわけにはいかないEUとしても、保守党一強体制が成立することのほうが望ましい展開といえるだろう。早期総選挙は英国とEUの両方にとって望ましいシナリオといえそうだ。
EUは11月から新執行体制に移行する。新たに欧州委員長に就任するフォン・デア・ライエン氏は7月半ば、英国のEU離脱に関する交渉期間について、一定の延長を容認すると発言した。EUもまた英国の離脱に伴う混乱を回避したい意向であるが、いつまでも事態を放置するだけの余裕などない。
EUから英国が切り離される日が近づいている
EUは今年春に離脱の交渉期限を10月末まで延期することを容認した際、10月末に再延期を要請するに当たっては、その具体的な理由を明言するように英国に対して注文をつけている。現状では早期の総選挙を行い、英国の国民に新協定受入の是非を問うことは、最も説明責任がある再延期の理由となるだろう。
「会議は踊る、されど進まず」は、ナポレオン戦争後の国際秩序を決める際に開催されたウィーン会議(1814~15年)で、各国の利害対立のために交渉が遅々として進まない状況を揶揄した言葉である。EU離脱に当たり英国でもまた、そうした状況が長期化している。英国もまた欧州の勢力均衡の伝統を引きずっていると言えよう。
とはいえ、繰り返しとなるが、EUが踊り続ける英国にいつまで付き合うか定かではない。しびれを切らしたEUから英国を切り離す日が近づいているというのが筆者の認識だ。EUが英国に対する「最後通牒」を突き付けるタイミングは、すぐそこまで来ているのかもしれない。