——バブルの頃も、オリックスは大規模な不動産融資や証券会社が主導する財テクには手を出しませんでした。
【宮内】単純に「こわいな」と思ったんです。「世の中、浮かれているけれど、どこか変だぞ」という思いがぬぐえませんでした。
そのきっかけになったのが、ある銀行の頭取から聞いた一言でした。「日銀がここまで金融を緩和しているのに、上がるのは株式、不動産などの資産の価格だけで、物価が上がらないのが不思議だ」と。これが意味深い言葉に思えて、慎重に行くべきだと判断し、不動産融資の縮小を社内で指示したのです。当時は「社長は間違っている」と社内でいわれたりしましたし、会社を去る幹部社員もでたりしましたが、結果的に判断は正しかったと思っています。
バブルが崩壊する直前、不動産価格が下落しているのを見た某有名企業の社長より、「今が買い時です。一緒に買いましょう」と電話で言われたこともありますが、もちろん、丁重にお断りしました。今はその企業は影も形もありません。
どうしてそのような判断ができたのか。今から考えると、頭で考えたというよりも、肌感覚が教えてくれたとしか言いようがありません。
経営者にとって重要なマクロ観
——ふとした一言に着目された話が象徴的ですが、マスコミの報道や専門家の発言をうのみにせず、独自の物の見方を身に付けることも経営者にとっては重要ですね。
【宮内】その通りです。私はそれをマクロ観と呼んでいます。国際政治や世界経済についての知見を深め、そこから、時代や国境を超えた大きな流れを捉え、自社や自分の立場に置き換えてみる。これがマクロ観を持つということです。
喫緊の問題としては、まず米中関係です。一生懸命、情報を集めて勉強し、自分なりの見立てを持ち、それを前提にして自社の戦略や計画を考えなくてはなりません。
米中関係の悪化は関税引き上げ合戦となり、世界中に不況をもたらします。不況になったらアメリカは金利を下げるでしょうが、日本はすでに相当の低金利ですから、これ以上は金利を下げられない。だとしたら、日本政府はどうやって不況に対応しようとするのか。そこまで考えるのが経営者の仕事だと思うのです。
企業経営にインパクトを及ぼす技術動向も探っておかなければならない。今でいうと、IoT(身の周りのあらゆるモノがインターネットにつながる仕組みのこと)やAI(人工知能)を活用したデジタルトランスフォーメーションです。この流れが自社にどういう影響をもたらすか、これらをどのように取り込んでいくか、これも経営者は必死に勉強しなければなりません。