リニア建設を本格化させるJR東海の驚くべき財務諸表

JR東海の決算短信からセグメント情報を見ると、事業セグメントには、運輸業、流通業、不動産業、その他があります。

そのうち、運輸事業が、売上高の77.2%、利益の93.7%と大半を占めているのがわかります。そしてその運輸事業の収益の柱は東海道新幹線なのです。

私は、ここ15年ほど年に100回以上は東海道新幹線を利用しています。だから「これだけ利益を出しているのだから、新幹線代金をもう少し値下げしてくれたら」という気持ちにもなります。でも、日本の将来を考えれば、ここはしばらく高収益を続けてもらうことが必要だと思います。

それはJR東海がリニア新幹線(中央新幹線)の建設を進めているからです。JR東海の貸借対照表を見ると、リニア建設が着々と進みつつあることがわかります。

貸借対照表の資産サイドには、「中央新幹線建設資金管理信託」という勘定科目があり、2019年3月末で2兆6071億円計上されています。一方、負債サイドには「中央新幹線建設長期借入金」が3兆円計上されています。

これは、3兆円の負債で資金を調達し、それをいったん信託勘定に計上し、それを徐々に取り崩しながらリニアの建設を行っているということです。固定資産にある、建設中の建物などが計上される「建設仮勘定」も過去1年間で2000億円強増加しています。

2027年開業予定の「名古屋まで」でもコストは約5.5兆円

キャッシュ・フロー計算書の投資キャッシュ・フローを見ても、その前の年度の2804億円に比べて、2019年3月期には3654億円の有形固定資産への投資をしており、投資額を増やしているのがわかります。

先ほどの3兆円の長期貸付金ですが、このもともとの原資は財政投融資です。当初、JR東海は、先ほども説明した、毎年6000億円程度稼ぐ営業キャッシュ・フローからリニアへの投資資金を賄おうと考えていました。

リニアに必要な金額は、2027年開業予定の名古屋まででも約5兆5000億円、大阪までだと9兆円かかります。しかし、それを自前で賄うのはこれだけ稼ぐJR東海でもなかなか難しく、名古屋までの完成後、10年程度は大阪への延伸を行わず、その間はキャッシュを貯め、財務バランスを回復させるという財務戦略を考えていました。資金の「踊り場」を作ろうとしたわけです。

しかし、日本政府としてもリニアは国家戦略の目玉ということもあり、財政投融資から低利で3兆円を貸し付けることにより、JR東海が資金の踊り場を作らなくてもいいようにしました。

それにより、大阪までのリニア延伸は当初より10年早い2037年の予定となっています。日本の新しい動脈の完成が10年早まったわけです。成長が止まっている日本経済の活性化に寄与することが期待されます。