意に反する性行為であることは明らか

この事例では、言い分に対立があったり事実関係について加害者が否認する部分がありました。しかし、以下の点は争いのない事実でした。

①本件で、被害者と加害者は前日にスポーツクラブで初対面であり、交際関係などがなかったこと
②被害者には当時交際相手がいたこと
③被害者が未成年であり、被害者と加害者の間の年齢差が大きく、被害者にとっての恋愛対象ではないこと
④被害者が被害当時、未成年者としてはあまりにも過量な6杯のアルコールを飲酒させられ、一時意識を失うほど強く酩酊していたこと
⑤加害者は、被害者の衣服を脱がせ、性行為をするまでの間に動画撮影をしており、被害者は「動画を撮らないでください」と申し出ているにもかかわらず動画の撮影が続けられていること
⑥加害者宅から逃れ、加害者と別れた直後に被害者が交際相手に電話をして被害を相談していること
⑦⑥の最中に加害者が引き返して被害者との間で口論となり、加害者が被害者を脅すなどして、その内容を被害者の交際相手が電話越しに聞いていること
⑧口論の過程で、被害者に対し「性行為の動画をばらまく」と脅したことを加害者が認めていること
⑨翌朝には被害者が警察に対し、被害申告をしていること

ここから、被害者の意に反する性行為だった、という事実が強く浮かび上がってきます。

写真=iStock.com/BenAkiba
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強制性交にも、準強制性交にもあてはまらない

E子さんは、飲酒酩酊を通り越して泥酔状態で意識を失っていました。無理やり性交をされたときには意識を回復していましたが、それでも自力で歩くこともできず、意識もはっきりしていなかったのです。

それでも「意識が戻った」ということで、「抗拒不能」(抵抗不能な状態)とはみなされませんでした。彼女は「動画を撮らないでください」と述べたり、性交されないように手で性器を抑えて抵抗し、さらに性交されている最中も泣き叫んで抵抗しようとしました。

しかし、そのような抵抗は、体力差からみても、深刻な酩酊状態で体に力が入らず、しかも突然裸にされ、裸の動画を撮影され、レイプされそうになって極度に混乱している状況のもと、加害者との関係ではほとんど抵抗になっていないレベルのささやかなものにすぎませんでした。 

少しでも抵抗できていたのであれば「抗拒不能」とは言えない、という認定はあまりにも被害者に酷です。