兄の受験票を燃やした美幸の奇行
それから数日後、会社にいるオレの携帯に母親から電話が入った。どうせロクなことじゃないだろうけど出るしかない。
『どうした?』
『あのね、雄介が専門学校の試験に落ちちゃったよ!』
雄介は高校3年生の弟である。アネキがAV女優になったことにショックを受け、パッケージのコピーを実家に郵送してきたのは弟だ。ま、あいつはアホだから落ちてもおかしくないよ。
『まぁ、また来年頑張ればいいじゃん』
『それがね…受験票を美幸が燃やしたからなのよ』
背筋がゾクッとした。あのおとなしい美幸が受験票を燃やしただって?
その晩、オレはまっすぐ実家に戻った。母親は半泣きになりながら言う。
「こないだの月曜日、買い物から戻ったら、表で美幸がゴミを燃やしてたのよ」
マンション前のスペースでゴミ焼きなんて、ウチの習慣には当然ない。妹にとってもかつてない奇行だ。母親に見とがめられ、美幸は素直に家に戻った。
「その中に雄介の受験票も入ってたみたいなの」
さっぱりわからない。故意に燃やしたのか、それともゴミだと思ったのか。いや、なによりなんでゴミを燃やす必要があるんだ。
受験票がなくなったことに試験当日の朝に気づいた雄介は、再発行してもらえばいいものを、勝手にふてくされてあきらめてしまったのだそうだ。つまり落ちたのではなく、受けてすらいないのだ。
この一家はコントか。つい口元がゆるみそうになったが、ドタバタの原因をたどっていくと、このオレの責任のようにも思えてならない。だって美幸の奇行は、205号室に連れて行った翌日のことなのだから。(続く)