一方、トランプには未達の選挙公約もある。その象徴的な公約が巨額のインフラ投資政策だ。インフラ投資政策は米経済に更なるカンフル剤を投入することになるが、実はこの政策はトランプの支持基盤である共和党保守派から不評な政策の1つである。一般的に共和党保守派は政府の肥大化に繋がるインフラ投資全般を好ましいとは考えておらず、トランプ政権発足後も彼らが支配する下院共和党は同政策に頑強に抵抗してきた。
しかし、インフラ投資政策は下院共和党保守派が18年中間選挙で過半数割れしたことで日の目を見る機会が出てきている。むしろ、トランプ政権はこの展開を読んで同政策を後回しにしてきた節すらある。下院民主党がトランプへの弾劾をチラつかせたことの影響で、一時的に同政策が暗礁に乗り上げたようにも見えたが、民主党執行部は実際には弾劾手続きを進めなかった。
その結果として、インフラ投資は財源をめぐる修辞的な問題を克服すればいつでもGOサインが出る状態となっている。現在積み残されている政策は同政策を含めて薬価引き下げやオピオイド問題対策などの超党派的支持を得られる政策が多い。そのため、下院多数派の民主党も無下にできず、トランプ政権に対する超党派の支持が高まっていく可能性も否定できない。
以上のように、トランプは政権を取り巻く状況に合わせて着実に公約達成に向けた歩みを進めている。各種メディアの報道では同大統領の派手な言動に目を奪われがちであるが、時期に応じた臨機応変な政局運営能力が注目されることは少ない。実際にトランプが大統領に再選された場合は、政局上の実務力の高さこそが真の要因と言えるであろう。(文中敬称略)
乱射事件で大量死しても米国から銃は消えない
銃乱射事件が相次ぐ中、トランプ大統領が犠牲者に哀悼の意を示しつつも、米国で銃規制が進まないのはなぜだろうか。
米国の憲法には「規律ある民兵団は、自由な国家の安全にとって必要であるから、国民が武器を保有し携行する権利は、侵してはならない」と明記されている。この条文が米国における銃規制に反対する根拠であり、米国民の深層心理に深く根差した精神的な根源となるものだ。
銃規制に積極的だったオバマ政権下においても、バイデン副大統領(当時)が「護身用には散弾銃を買いなさい」と主張しており、自己防衛の考え方や自主独立の精神を保つことは米国民にとって所与のものとして捉えられていることがわかる。
また、全米ライフル協会などの銃規制に反対する強力なロビー団体が存在しており、連邦議会議員らは強力な圧力の下に置かれた状態で法案審査に臨んでいる。各議員はロビー団体にその言動を見張られてレーティング(採点)されている。ロビー団体の影響力は大統領であったとしても無視することが難しい。
米国民にとって銃規制は自らのアイデンティティーに関わる問題であり、現実の政局上も極めて困難な問題といえるだろう。