3つの「ベルト」に対する適切なアプローチが欠かせない
トランプが再選を勝ち取るためには、3つの「ベルト」に対する適切なアプローチが欠かせない。その1つは16年の大統領選挙で勝敗を決したラストベルトだ。同地域は製造業地帯を中心とした工業地域で、開発途上国との国際競争の激化、バラク・オバマ政権時代に強化された産業やエネルギー開発規制によって衰退してきた地域でもある。トランプがラストベルトの票田を現在でも意識していることは、同氏がFRB(連邦準備制度理事会)の利下げに拘るとともに、同地域にメリットをもたらすインフラ投資に積極的な姿勢を示していることからも自明であろう。
ただし、20年大統領選挙はラストベルトの接戦州を押さえれば勝てるという単純な構図ではない。現在、選挙の勝敗を分ける焦点として急速に関心が高まっている地域は「サンベルト」である。サンベルトとは米国の南部諸州を指す言葉だ。
現在はあまり注目されていないが、共和党の絶対的な地盤として金城湯池であった同地域における共和党優位の構造が揺らぎつつある。
もともと南部諸州は銃規制に反対し、学校における銃乱射事件に対応するために、教師らに銃武装させたり学校が独自に乱射事件に対応する専門家を雇うことを支持するような、保守的な共和党地盤であった。しかし、前回の大統領選挙時にヒラリーが同地域での票の掘り起こしに一部成功しており、18年中間選挙においては共和党候補者が敗北または大苦戦する状況に陥った。特にテキサス州上院議員選挙で、民主党予備選挙に出馬しているベト・オルークが共和党のテッド・クルーズ上院議員を敗北寸前まで追い込んだ出来事は、サンベルトにおける共和党支配が陰りを見せている象徴となった。
同地域は自由貿易を相対的に支持する人々が居住しており、なおかつ近年ではヒスパニック系住民も増加している。そのため、トランプの貿易戦争に関する姿勢は必ずしも絶対的な支持を得ておらず、ヒスパニック系住民などに対する姿勢も肯定的には捉えられていない。そのため、これらの地域での世論調査の数字が悪化した場合、トランプの対中貿易戦争などに対する姿勢が変化し、ひいては日本なども影響を受ける可能性が皆無とは言えない。
共和党にとってサンベルトにおける苦戦は、同地域と一部がかぶっている米南東部の「バイブル(聖書)ベルト」を重視する戦略に繋がっていくことになる。バイブルベルトとはキリスト教の影響力が極めて強い、宗教票が選挙結果に大きな影響を与える地域のことだ。トランプは貿易戦争の長期化などに対する経済団体等からの批判を乗り越えるため、経済的利害を超えた愛国心の高揚などのイデオロギー的支持を必要としている。