医療業界にもバカな現状維持バイアスが存在する
最近になって、糖尿病患者向けに血糖値を下げる目標値が、これまでより高めに変更になった。こんなことは10年も前からアメリカやイギリスの大規模調査で、むやみに血糖値の目標値を下げないほうが死亡率が低いことが明らかになっていた。ところが、各学会など日本の権威たちがそれを認めようとしなかった。
また、体形的にもやや太めの人や、コレステロール値が高めの人のほうが死亡率が低いというデータが次々と出されているのに、メタボリックシンドローム対策を主張する医学界のドンたちは、その主張を改めようとしない。そのため医薬品業界との癒着があるのではないかと以前から指摘されている。
最も偏差値の高い医学部を出て、大学病院の出世競争に勝ち抜いた医学部の教授たちの中には、現状維持バイアスにより新しい発見や疫学データを一切信じようとしない人が少なくないのだ。それを否定するための大規模調査を自分たちで行ったという話は聞いたことがない。
私は、これは意図的にそうしているのでなく、彼らは自分のたちの「思い込み」を信じて疑わないだけだと考えている。自分がバカな判断をしていると気づきにくいことだ。それだけ現状維持バイアスは怖いものなのだ。
現状維持バイアスは政治家や医師だけの話ではない。ビジネスでも同様のことがいえる。これまでの常識やセオリーに凝り固まっていては、新しいものは何も生めない。
自分が現状維持バイアスに陥っていないかを自問する姿勢を持ち、ほかの可能性を真摯に検討する姿勢が、自分のバカ化を回避し、賢明であり続けるための唯一の対策なのだ。