ニッチ需要が首都圏でしか成立しないワケ
これが東京であれば、西麻布にクラブがいくつも立ち並び、池袋北口に本格中国料理店が集まり、秋葉原にメイド喫茶が増加すると、それに合わせて顧客が増え始めます。お店の数が増え、顧客が増えると、そのジャンルの中で各店がさらに個性を競うようになります。そういった集積効果が起きるのは、背景要因として約3800万人の首都圏人口が存在するからです。
首都圏では、たとえ人口の0.1%しか需要がないようなニッチな新業態だとしても、実人口に換算すれば4万人程度の需要に相当します。それが東京の強みです。次々にライバル店が開業しても採算が合い、相乗効果でブームが広がります。それにより、「クラブの街」「萌えの街」「演劇の街」「アンダーグラウンドな街」「韓流の街」……など、ニッチ需要が集積した街が東京の随所に誕生するのです。
ところが、同じ0.1%の層にヒットする業態でも、人口40万人の地方都市であれば、顧客層は400人しかいません。そのため地方中核都市では単店では成立しても、街としての個性を生むことができないのです。
結果として、全国どこへ行っても同じようなチェーン店があり、同じようなコンビニがあり、同じような居酒屋があるという、似たような光景が全国に広がっていくわけです。これは経済合理性が生み出す全国共通の構造といえます。
なお、こうした地方都市の同質化現象を経済合理性から打破しようとすると、観光インバウンド需要を狙った都市の差異化が有効です。喜多方のラーメン、美瑛の農業風景、湯布院の温泉旅館などは地方でも個性を打ち出せた成功例であり、こうした方法で街を個性化する手法を私は否定しません。
「渋谷、新宿、池袋」の未来
さて、話を大都市に戻すと、東京の街が個性を維持できている最大の理由は、首都圏人口3800万人という数がもたらす差異化セグメント需要の大きさにあることは前述の通りです。冒頭のアジアの各都市についても、これがあるかないかで今後の進化の方向は変わるでしょう。
たとえばバンコクも、単純な首都圏人口で考えれば約1400万人が存在しますが、中流層人口(つまり現地では富裕層人口)を考えると、まだ東京ほどの割合に達していません。バンコクの中心街が他のアジアの都市と似てしまうのはそのためです。
中流人口が非常に大きい上海などは、これから先、どんどん街が個性化していく可能性があるといえます。
一方、東京はというと、恵比寿、渋谷、新宿、池袋、中目黒、下北沢、吉祥寺といったそれぞれの街に、そこで誕生したニッチな業種に根ざす強い個性があるだけでなく、最近ではインバウンドを前提に大きな変化を遂げつつあります。
浅草は江戸の情緒を、銀座は高級品のショッピングを、秋葉原は萌えのカルチャーを中心に、さらなる変化を続けているのはみなさんもご存じでしょう。これも人口に根ざした経済性があればこそで、東京の街は今後も個性を強めていく可能性を秘めています。