なぜ歯が悪いと動脈硬化になるか

歯周病と糖尿病は、相互に悪い影響を及ぼすこともわかっている。つまり糖尿病の人は歯周病になりやすい。高血糖の状態が続くと体の中の防御機能が低下し、歯周病菌が増える。また、歯茎の血管を傷めると歯周病が進行しやすくなるといわれる。

「糖尿病の人がなりやすい病気(合併症)といえば、網膜症、腎症、神経障害などがよく知られていますが、歯周病もそのひとつ。糖尿病の人は糖尿病でない人の2.5倍も歯周病になりやすいのです」

一方、歯周病の人は狭心症・心筋梗塞などを含む循環器系の病気にかかるリスクも高まる。歯周病の人はそうでない人に比べ1.5~2.8倍も循環器病を発症しやすいのだ。

循環器系の病気の鍵は、動脈硬化だ。動脈内にコレステロールなどの脂肪がどろどろ状態になって厚くなり、動脈が狭くなるタイプの動脈硬化(アテローム性動脈硬化症)の患者の血管内から、歯周病菌が発見されたことが多数報告されている。

「これは歯周病菌が歯茎の血管を通じて動脈に入り込み、直接、血管に障害を与えるほか、炎症の起きた歯周組織から出る炎症性のサイトカイン(炎症によって出てくるたんぱく質の一種)なども血流を通じて心臓や血管に移動し、血管内皮細胞やアテローム性動脈硬化部分の免疫細胞に作用し、心臓血管系の異常を引き起こすのではないかと考えられています」

呼吸器系では、肺も歯周病との関連がある。高齢者の死亡原因のひとつ、口の中の細菌や食べ物を唾液と一緒に誤嚥(ごえん)することで発症する誤嚥性肺炎がある。この誤嚥によって、口内やのどの上部に存在する細菌が侵入し、肺炎を引き起こす。

「最近、歯周病菌が肺の感染部分から検出されて、肺炎の一因であることがわかりました。歯周病を治療することで口の中の細菌が減り、誤嚥性肺炎のリスクも回避できます」

心臓や肺といった循環器系が危ないなら、当然のこと脳のほうも危険な状態だ。脳血管障害や認知症などに、歯周病が関わっているのだ。

まず2013年、アルツハイマー病の患者の脳から歯周病の原因菌が発見された。患者10人中、4人の脳からこの菌が見つかったが、同じ年齢で認知症ではない10人の脳からは全く検出されなかった。その後、歯周病菌からできる物質により、アルツハイマー病特有の脳の異常が引き起こされる可能性もわかってきた。

例えば、日本大学歯学部の落合邦康特任教授(口腔細菌学)らは、歯周病の原因菌によって作られ、口臭の原因にもなっている「酪酸」が血管を介して脳の海馬で、鉄分子などを作りだすことを突きとめた。この鉄分子が脳細胞を破壊するわけだ。