血圧や肝臓など健康診断の「数値」には一喜一憂する一方、歯のケアに関してはあまり気を使わない人が少なくない。だが、口の中から発生する歯周病菌が血管に侵入して全身を巡り、脳や心臓などに重大な病気を引き起こす可能性が高いのだ。

歯のケアをサボると命に関わる!

健康診断や人間ドックのメニューの中に通常、「歯科検診」は含まれない。体の内部は、血液や尿・便を採取したり、エックス線や超音波(エコー)の画像診断をしたりしてくまなくチェックするのに、歯は口の中に違和感を覚えたときに診察してもらう程度。そんな人も多いのではないか。だが、それでは体は知らぬ間に老いぼれてしまうリスクがある。

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「ことは歯の問題だけではすまなくなります。脳や肺・心臓・血管など命に関わる臓器の重大インシデントとなる可能性があるのです」

とは、歯科医の若林健史さんだ。歯の劣化・歯周病の影響で脳・心臓・血管・性器などがやられる。具体的には「脳・心疾患」「糖尿病」「認知症」「ED(勃起不全)」などに直結するという。そうした警鐘が鳴らされているのを承知の人は多いが、本当の怖さと発症の仕組みをきちんと知る人は少ない。後ほど、それらのメカニズムを詳しく説明するが、ここでは全身の病気の元凶となる歯周病に関する基礎知識をおさえよう。

日本人が歯を失う最大の原因は何かと聞かれ、何と答えるだろうか。実は「むし歯」ではない。むし歯以上に原因となっているのが歯周病だ。人間の口には300~700種類の菌が存在する。むし歯菌と歯周病菌は全く異なるものだが、中でも最も凶悪なのが歯周病菌である。

むし歯の場合、食べカスをむし歯菌が分解→分解された食べカスが歯垢に→歯垢は糖分を得ると乳酸を生み出す→乳酸が歯の表面のカルシウムやリンを溶かす→むし歯となる。

では、歯周病はどうか。むし歯も歯周病も、歯磨きが不十分なことや、歯のメンテナンスを怠ることで発生する「生活習慣病」だが、歯周病になるプロセスはむし歯とは異なる。

まず、食べカスに歯周病菌が付着→食べカスが分解されて歯垢ができる。ここまではむし歯と同じだが、あとが違う。歯垢から吐き出された毒素により歯茎が腫れる→腫れが進行すると歯周ポケット(歯と歯茎のすき間)が深くなる→歯を支える骨が溶ける→歯が抜ける、という流れ。黒くなるむし歯も嫌だが、最終的に歯が抜ける歯周病はもっと嫌だ。しかも痛みが出るむし歯と違い、歯周病は初期段階では自覚することが困難で、ある日突然、歯が抜けることもあるから困る。若林さんは語る。