では、なぜ表彰者以外の人たちまでこんなにも「共感」してくれているのかというと、そこには「公平な評価制度」に対する信頼感があるからです。

表彰者は私が好みや直感で選んでいるわけではなく、評価制度に基づいて、最終的には部課長の推薦で決まります。誰もが納得する人、認めざるをえない働きぶりをしている人が選ばれているため、「なぜあの人が表彰されたのかわからない」「あの人よりも私のほうが表彰されるべきだ」といった不満が出ることはありません。

表彰されなかった人たちがこれほど大盛り上がりできるのは、「自分たちが承認した制度によって選んでいる」という能動的な意識が根底にあるからなのです。

みんなが選んで、みんなを表彰する。「みんなが主役」になれる日が、「船橋屋」の新年会なのです。

内定者も会社の一員

このような「社員の主役化」の取り組みはほかにも多くあります。

たとえば、「船橋屋」では入社1年目、2年目の若手社員が中心となって、月1回、「社内報」を発行しています。

若手社員が中心になって作成する社内報(写真提供=船橋屋)

毎月、部署や人にフォーカスを当てて、インナーコミュニケーションに役立てているのですが、そのなかでもビジョンや理念に沿った行動をしている人を「月間MVP」として発表しているのです。

また、内定した学生にも早くから「主役」であることを意識してもらいます。

彼らには内定後の初顔合わせと同時に2つのチームに分かれてもらい、「商品開発研修」として、ゼロから新商品を考え、3カ月後にそれを幹部の前でプレゼンしてもらいます。

他社商品のベンチマーク、ターゲット層の設定、原価計算を経て、試行錯誤を繰り返しながら実際に商品を作り上げていくという一連の流れを通じ、入社前にマーケティング意識とチームビルディングを学んでもらっています。

また、内定者には、1人につき先輩社員2人がついて入社までをフォローする「内定者フォロー制度」や、「船橋屋」のビジョンや考え方などについて学ぶ「クレド研修」などがあります。こうした研修を経て、社会人としての心構えを持つと同時に、「船橋屋」のクルーの一員になる準備が整うのです。

「船橋屋」で行なわれている「人材開発」における具体的な取り組みはこれだけにとどまりません。

もちろん、業種や会社の形態によって人財開発のスタイルはさまざまでしょう。しかし、成果が生まれる型組織になるために必要なことは共通しています。

この会社は、誰のために、なぜ存在するのか。

この「Being経営」の基本的な考え方から外れることなく、この会社で働く人間が志を一つにする。それが「人財の成長」にもつながっていくのです。

渡辺 雅司(わたなべ・まさし)
船橋屋 八代目当主
1964年、東京都江東区亀戸生まれ。立教大学卒業後、三和銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。1993年、家業を継ぐために「元祖くず餅船橋屋」に入社。2008年、代表取締役八代目当主に。以降、老舗の伝統を守りつつさまざまな組織改革で、若い女性などファン層の拡大に成功。増収増益を続ける。
(写真提供=船橋屋)
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