いい人材を集めるには、どうすればいいのか。創業200年を超える老舗のくず餅屋「船橋屋」(東京・亀戸)には、毎年1万7000人の新卒学生から採用応募がある。八代目当主の渡辺雅司氏は、「社員一人ひとりが“主役”になる仕組みをつくった成果だ」と胸を張る――。

※本稿は、渡辺雅司『Being Management 「リーダー」をやめると、うまくいく。』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

人財開発は「場の力」づくりから

大企業であっても中小企業であっても、組織は「人」から成り立っています。その組織がうまく機能するか否かは「人」にかかってくる。組織を成長させていくには「人」を成長させるしか道はない。今さら言うまでもなく、多くの企業が「人財開発」に力を注ぐのは、これが理由です。それは「船橋屋」も然りで、社内では「人財開発」をこのように表現をしています。

渡辺雅司『Being Management 「リーダー」をやめると、うまくいく。』(PHP研究所)

「場の力をつくる」

「船橋屋」の組織は、「一燈照隅」すなわち一人ひとりが輝くことで、会社の隅まで明るく照らし、さらに社会まで照らしていくというマネジメントポリシーを掲げています。したがって、私の仕事とは、一人ひとりが光輝くことができる環境、つまり「場」をつくることです。

「場」に力をつければ当然、一人ひとりが発する光も強くなっていきます。「船橋屋」では、「場の力」をつくるということが、まず「人財開発」で最初にすべきことと捉えています。私はよく、この「場の力」づくりをポップコーンにたとえます。

ポップコーンを作るには、まずコーンをフライパンに入れて、熱し続けます。すると、遅かれ早かれ、どんなコーンもポンポンポポンと、弾け出します。このコーンが「人財」であり、フライパンという「場」を温め続けることによって、個々のスピード感の違いはありますが、いずれすべてのコーンが弾けて、ポップコーンになっていくのです。

「全員が主役」の機会を設ける

そんな「船橋屋」の「人財開発」については、ありがたいことに各方面からご興味を抱いてくださるようで、全国各地の経営セミナーや講演などに招かれます。その地域の経営者の方たちとお話をすると、ほとんどの方が「人財開発」について頭を悩ませていらっしゃいます。このような「人財」にまつわるご相談が非常に多く、その悩みを解決する糸口として、「船橋屋」の取り組みを参考にしたいとおっしゃるのです。

もちろん、一般企業で実施するような研修制度もありますが、それ以上に大事にしている「皆が主役」になる機会です。

ありがたいことに、「船橋屋」で働きたいという声が非常に多く寄せられています。いまでは就職活動シーズンになると、約1万7000人の学生が就職希望に訪れるほどです。

その理由は、「老舗の和菓子屋」のイメージとはかけ離れた自由闊達な雰囲気や、社員の自主性に任せる働き方がメディアなどでも多く伝えられていたこともありますが、「船橋屋」で働く一人ひとりが光り輝く「場」をつくることを重視してきたからではないかと考えております。