「僕たちがフランスに行って、ブルゴーニュのぶどう畑を見ながらワインを飲むような感覚です」
もともと地域が持っていた価値を業種を越えて「編集」することで、新たな価値を生んでいるのです。
SNSに写真や感想をアップ
実際に嬉野茶時の取り組みは、メディアでも広く取り上げられ、海外からの旅行客も増えています。もともとお茶文化のあるアジア圏、さらに日本茶ブームのヨーロッパからの観光客が、SNSに写真や感想をアップすることで、訪れる人が増える好循環が生まれているのです。2018年もSNSで「杜の茶室」を見つけたイタリア人カップルの「どうしてもここで結婚式を挙げたい」という声に応えて、特別に挙式が行われたのだそう。
自身のビジョンを前面に出し、地域で一緒に生きる人と協働して多くのことを実現してきた北川さん。最後に、今後の大村屋の未来像を尋ねたところ、意外なようで、それでいてこれからの中小企業が生き残るうえで、非常に示唆に富んだ答えが返ってきました。
「じつはいま、誰でもいいからお客様に来てもらいたいというモードではなくなっているんです。本当に共感していただける方だけに、いらしていただければいいと思っています。僕たちの規模の旅館が提供できる、最高の幸せには、適切な大きさがあると思うんです。大村屋や嬉野は、僕たちらしいものを表現する場所なんです。そこに来てくださる『おかえりなさい、1年ぶりですね』と声をかけられるお客様と、一緒に幸せになりたいというのが、いまの大村屋のビジョンです」
▼デザイン思考のポイント:地域や人とのつながりから新しい価値をつくり出す
●所在地:佐賀県嬉野市嬉野町大字下宿乙
●売上高:2億6000万円(前年比105%)
●従業員数:25名
●沿革:1830(天保元)年創業。大村藩の脇本陣としてはじまり、伊能忠敬、大田南畝、斎藤茂吉、中林梧竹なども滞在したことで知られる。
BIOTOPE代表 京都造形芸術大学客員教授
1980年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業後にP&Gジャパンに入社。ブランドマーケティングに携わった後、ソニーを経てBIOTOPEを創業。米国イリノイ工科大学にてInstitute of designを修了。18年より大学院大学至善館准教授。