「失われた30年」という日本失敗論には距離を置くが…

6年前の13年、経営コンサルタントの大前研一氏も、日本が目指す方向として「クオリティ国家」という道を推薦している。これらの国家は、人口はそんなに多くはなく、1人当たりGDPが400万円以上で、世界の繁栄を取り込むのが非常にうまいといった特徴を共有する。スイス、シンガポール、フィンランド、スウェーデンがその典型だ。

一方、著者も五木氏も大前氏も、日本の現状に対してはかつての成功経験にあぐらをかき、イノベーション意欲は不足しているという認識を持つ。だから、著者は繰り返してきた愚策を捨て、失敗を恐れず、飽くなき挑戦を続けるのがこれからの30年の使命だと主張する。

失われた30年という日本失敗論に距離を置きながら、著者は、日本こそがもっとも先進的な社会と文化を持っており、他の国々は日本に見習うべきだという極端な日本礼賛論にも警戒している。

万葉集」に出典を求めたと主張された令和時代に、果たして日本はどんな道を進むのか。そんなことを考える機会を与える一冊だと思う。

莫 邦富(もー・ばんふ)
作家・ジャーナリスト
1953年、中国・上海生まれ。上海外国語大学卒。85年に来日、知日派ジャーナリストとして「新華僑」「蛇頭」といった新語を日本に定着させた。『中国全省を読む地図』『この日本、愛すればこそ』など著書多数。
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