高齢ドライバーの運転免許更新を厳格化すべき
愛車を勝手に売ってしまった息子さんに対し、父親は激怒しました。これを機に親子は絶縁状態になり、1年以上たった今も顔を合わせられない状態とのことです。父親はディーラーに勤めていたこともあって、新車を買おうともしましたが、これは家計を仕切っている奥さんがストップをかけ、購入には至っていないそうです。Tさんは言います。
「認知症になるのは不可抗力であって、ご本人の責任ではありませんし、クルマを取り上げるのは気の毒だとは思います。その一方で、危うい状態にあるドライバーに運転をやめてもらいたいと思っている良識あるご家族も多いにもかかわらず、その思いに反して運転を続ける高齢者がいて、悲惨な事故も起こっているのが現実なのです。ただ、2つの事例のように高齢者をだますというか、ごまかすような、正当ではない形でしか運転をやめさせることができない現状は、どう考えてもおかしいと思います」
つまり、高齢ドライバーによる事故を少なくするには思い切った制度改革が必要だと言うのです。
「運転免許というのは、安全に運転する能力を有しているという証明であるわけですよね。が、私が担当する利用者さんには加齢によって明らかにその能力が失われた方がいるわけです。その能力はもっと厳密にチェックされるべきだし、それには免許の更新を厳しくしたほうがいいと思うんです」
71歳以上の高齢者の運転免許有効期間は3年間。更新時、70歳以上は「高齢者講習」、75歳以上は「認知機能検査」を受ける必要があります。このふたつが高齢者の運転能力を見極める判断材料になっているわけです。Tさんは言います。
「認知症は短期間で進行するケースが少なくありませんから3年の有効期間は長いと思います。1年にすべきではないでしょうか。また、高齢者講習では運転実技もありますが、聞いた話によると1人当たり10分程度と短く、少々ミスをしても更新できてしまう。免許を取る時の検定に近い厳しさがあっていいと思います。このようにハードルを高くすることで、どうしても運転する必要がある人以外、更新は面倒になって、免許返納も増えるのではないでしょうか」
免許を返納する高齢者は年々増えているといわれますが、それでも75歳以上の返納率は4.71%(警察庁「免許運転統計」2017年度)でしかない。大多数の高齢者が「自分は大丈夫だ」と運転を続けている現実があります。
「その当事者を間近で見ている分、危機感が募るんです」とTさんはため息をつきました。