テレビ番組制作も手掛ける映画スタジオ大手は当初、ネットフリックスとの提携は互恵的と考えていた。例えばあるドラマをテレビ局が放送中としよう。ネットフリックスが放送済みの古いエピソードをストリーミング配信すると、ドラマは大きな反響を呼び、過去の全シーズンを一気見する契約者が続出する。
その後、最新エピソードがテレビで放送されると、彼らが大挙してテレビに押し寄せ、ドラマの視聴率ははね上がる。テレビ局幹部はこれを「ネットフリックス効果」と呼んだ。
代表例がテレビドラマの『ブレイキング・バッド』と『マッドメン』だ。いずれも当初は苦戦したが、ネットフリックスで過去のシーズンが配信されると、状況が一変。突如として視聴率がはね上がり、高い評価を受けて大ヒットした。
「ゴミ収集」とやゆした大手スタジオがすり寄るように
だからこそテレビ業界はこぞってネットフリックス詣でに乗り出したのである。ネットフリックスを「アルバニア軍」などと呼び、見下していた映画スタジオ大手タイムワーナーのCEOジェフリー・ビュークスも例外ではない。
彼は人気テレビドラマ『NIP/TUCK マイアミ整形外科医』のほか、『ヴェロニカ・マーズ』『プッシング・デイジー 恋するパイメーカー』『ターミネーター サラ・コナー・クロニクルズ』のようなカルトドラマの配信権をネットフリックスに売った。それでありながら、ネットフリックスをなおもばかにしていた。もうどこにも売る相手がいなくなったときに最後に頼る相手だとし、「ゴミ収集のような公共サービス」と決めつけていた。
ネットフリックスにとって、ハリウッドとの取引はますますうまみを増していった。ネットフリックスの最高コンテンツ責任者(CCO)テッド・サランドスはリーマンショックの後遺症を引きずっていた映画スタジオに近づき、大枚をはたいて有利な条件でコンテンツを獲得していった。テレビドラマについては全シーズンの独占配信権を基本にしていた。視聴者のビンジウォッチング(一気見)需要に応えるためだ。