ネットフリックスはすでにIT業界の勝ち組と見なされている。株式市場で圧倒的なパフォーマンスをたたき出し、ハード中心のアップルを除くフェイスブック(F)、アマゾン(A)、グーグル(G)と共に「FANG(ファング=牙)」としてくくられるようになった。4社とも米ナスダック市場の上場銘柄で、3000銘柄以上に上るハイテク株・成長株全体のパフォーマンスを左右するほどの影響力を持つ。

ちなみにネットフリックス以外の3社も独自のストリーミングサービスを開始し、ネットフリックス追撃態勢に入っている。

激しい社内競争、失敗したら容赦なくクビ

動画配信サービス躍進の裏で、ネットフリックスの企業文化も変貌を遂げた。もともとのDNAはカオス状態で予測不能だけれども、創造性に富んだスタートアップ(斬新なビジネスモデルを探し出し、短期間で急成長を遂げる一時的なチームのこと)だ。

そんなDNAは今では消え去り、代わりにヘイスティングスの肝いりで生まれたのがプロのスポーツチームさながらの競争文化だ。数字ですべてが決まる優勝劣敗の文化ともいえる。社員は大幅な情報アクセス権と自由裁量権を与えられながらも、失敗したら割増退職金を渡されて容赦なく首にされる。

それだけに採用方針も徹底している。ネットフリックスに入る人材はトップクラスに限られる。いったん入社すれば「完璧な大人」として振る舞わなければならない。スケジュールや有給休暇取得、経費請求について100パーセント自分で判断するのはもちろん、上司・同僚の辛辣な評価も甘んじて受け入れる度量を求められる。

ウォールストリート・ジャーナル紙はネットフリックスについて「ここには直言と透明性が何にも増して美徳とされる文化がある。問題社員を解雇すべきかどうかをめぐって公の場で活発に議論が交わされる。それは一種の儀式であり、ありふれた光景でもある」と伝えている。

競争文化があるからネットフリックスはライバル勢よりも一歩先を行っているのか? 少なくともヘイスティングスの答えは明確なイエスだ。

テレビ・映画業界は“ウィンウィン”だと思っていたが……

競争はますます激しくなっている。ソーシャルフローCEOのジム・アンダーソンはテレビのトーク番組「バーニー&カンパニー」に出演し、「ネットフリックスの周りは競争相手ばかりですよ。フェイスブックは10億ドル投じて動画配信サービス『ウォッチ』をスタート。Hulu(フールー)もいるしアップルもいる。いまは映像コンテンツの黄金時代です。誰もがオリジナルコンテンツを制作・配信している。でも、こんなに大量のコンテンツを一体誰が見るのでしょうかね?」と語った。

11年暮れに書いた本書エピローグの中で、私はケーブルテレビとコンテンツ制作の両業界に対して、「高額な料金、ひどいサービス、最低のコンテンツ」に消費者が不満を強めていると警告した。それから10年足らずで警告通りの展開になった。ネットフリックス主導で消費者が反乱を起こしたのだ。

ここで映画スタジオは事の重大さにようやく気付いた。ネットフリックスに映画やテレビドラマなどのコンテンツを供給することで、知らぬ間に同社のストリーミングサービスを後押ししていたのである。