「商品の値決め」に秘密あり

このような構成比から、キーエンスが「ファブレス経営」を行っていることは容易に想像がつく。

ファブレス経営とは、自社で工場を持たずに、外部に製造を委託する方式のことをいう。日本ではユニクロを展開するファーストリテイリング、米国ではiPhoneのアップルが有名だ。しかし、両社の粗利益率を見てみると、ファーストリテイリングは約50%、アップルは約40%と、キーエンスの82.3%には遠く及ばない。

では、キーエンスは下請け企業に不当に低い報酬で商品を作らせているのだろうか。そう考えてみて、いくら金額をたたいたとしても、ここまで原価を圧縮することはできない。

つまり、「単にファブレス経営だから」という理由だけでは、キーエンスの高粗利益率の説明はつかない。

粗利益は、売上高から原価を差し引いたもの。したがって、もう一つの要素である売上高に理由があるはずだ。

原価に比べて高い売値で販売できる理由の1つ目は、商品の値決め方法にある。

ふつうは、商品を作るのに要する原価を積み上げ、そこに一定の利益を上乗せして売値を決めるが、キーエンスはちがう。顧客が支払ってもいいと考える金額を把握し、それに応じて売値を決める。

たとえば、製造過程で不良品が一定割合出て困っている工場があるとする。仮に、不良品1個で100万円の損失となり、毎年10個の不良品が発生するならば、5年で5000万円の損失となる。

そこに、キーエンスの検査装置を導入して不良品を未然に防げるならば、顧客が払っていいと思う金額は5000万円までとなる。検査装置の売値が4000万円であれば喜んで購入するだろう。たとえ、その商品の原価が500万円だとしても、である。

真骨頂は「コンサルティング営業」

2つ目は、徹底した顧客ニーズの収集がある。

同様の検査装置を他社でも作っていたら、結局はその会社との価格競争に巻き込まれることになる。だから、そうならないように、キーエンスは顧客ニーズを徹底的にヒアリングして顧客の真の困りごとを膨大に集め、データベース化して商品開発につなげている。その結果、いままでにないオンリーワンの商品が生まれる。類似商品が他にないので、顧客としては、高くてもキーエンス一択しかないのだ。

川口 宏之『いちばんやさしい会計の教本』(インプレス)

単に顧客から頼まれたものだけを作るのではなく、現場のことを理解した上で、顕在化していないニーズまでも捉えて顧客に提案する「コンサルティング営業」が、同社の真骨頂だ。

さらに、同じような困りごとを抱えている企業へ横展開して営業することで、収益力はますます増大する。横展開は国内企業にとどまらず、海外企業にも広げており、海外売上高比率は現在50%を超えている。

3つ目は、顧客への直接販売体制である。

ふつうは、販売チャネルを増やすために、代理店を使って自社商品を販売する。しかしキーエンスは、代理店を使わずに、最終顧客に直接販売している。そのため、代理店に中間マージンを取られることなく、利益を丸ごと自社のものにすることができる。しかも、顧客とダイレクトに接する機会が増えるため、顧客ニーズ収集に寄与するという二重のメリットもある。