多様性に満ちた「パンパース」のCM
ムーニーの例と比較したいのが、2016年に公開されたP&Gジャパンのおむつ「パンパース」のウェブ動画CMです。タイトルは、「キミにいちばん」。最初のシーンには、先の「ムーニー」と同じく赤ちゃんを抱っこしてあやすママ(白人女性)が登場します。違うのは、この先。黒人のパパ、アジア系のおじさん、アフリカ系のおばあちゃん、途上国の医師……と、性別、人種、国・地域を問わず、多くの人々が身近な赤ちゃんを思う姿が描かれていくのです。
赤の他人もいます。ベビーカーを運んでくれる出勤途中の男性、赤ちゃんの眠りを邪魔しないよう工事の手を止める工事現場のおじさん、さまざまな人が出てきます。私が一番好きなのは「警備員のおじさん」が赤ちゃんにだけわかるようにおどけた顔をして見せて、お母さんが振り向くと素知らぬ厳しい顔に戻っているシーンです。
最後には初めと同じママと眠りについた赤ちゃんとともに映し出されるのは、「there is nothing we wouldn’t do. (いつだって、いちばんのことをしてあげる)」という言葉。「赤ちゃんのために、みんなが一番のことをしてあげたいと思っている」という、非常に多様性に満ちた優しいメッセージが込められているのです。これは大きな共感を呼び、北米では公開後8カ月で1700万回以上再生されたそう。日本でも賞賛の声がネットにあふれていました。
「女性がいる」ではなく「多様性のあるチーム」がいい
この2社の明暗を分けたのは他でもない、スポンサーである企業内の中の意思決定層、そしてクリエイティブサイドの人たちの多様性の有無だと私は考えます。
前者のユニ・チャームは、素晴らしい製品を生み出してきた実績のある日本のメーカー。しかし、2017年の人事データを見ると、国内の管理職の女性比率は11.7%にとどまっています。一方のP&Gジャパンは、グローバルなメーカーであり、女性活躍に積極的なことでも知られる企業。2013年の時点で、役員の女性比率は57.1%、管理職の女性比率は34%。また、社長のスタニスラブ・ベセラ氏は多様性の重要性について熟知しており、取材時には「おむつであろうが、生理用品であろうが、カミソリであろうが、必ず多様性のあるチームでつくるのが重要だ」と話しています。
私も広告が出る前に「外部の専門家としてチェックしてほしい」と頼まれることが時々あります。
では、なぜ「女性がいるチーム」ではなく、「多様性のあるチーム」である必要性があるのか? そのヒントとなるのが、サントリーのビール「頂」のウェブ動画CMが炎上した事例です。2017年、出張先で出会った若い女性と「頂」を飲み交わすシーンを描いた「絶頂うまい出張」と題した動画が、ネット上で公開されました。女性だけをワンカメラで追ったいわゆるデート動画で、「肉汁いっぱい出ました」「コックゥ~ん! しちゃった」といったセリフも相まって、「女性を過度に性的なモノとして扱っている」と炎上。批判を受け、すぐに動画は削除されました。