「無理なダイエット」が必ずリバウンドする理由
拒食症になると、少食、低カロリー食品の摂取、過剰な運動、長風呂など、体重を増やさない行動をとります。一方で、料理番組や料理雑誌を食い入るように見る、食品売り場巡りをする、有名で高級な食品にこだわる、大量の食料品を隠し持つ、料理好きになり家族に無理やり食べさせる、栄養士や調理師を志望するという、食に執着する異常な行動をするのも特徴です。
これは飢餓の反動です。無理なダイエットが必ずリバウンドするのは、生体の防御反応だからです。拒食症の経過中にも過食が始まります。しかし、患者はやせたいので自分で嘔吐したり、市販の下剤を乱用したりします。脳の反応なので、低栄養が改善しない限りは止まりません。
小食にもかかわらず大量に食べたと虚偽を言い張り、病気だと認めずに周囲を困らせることもあります。これは大きさや味覚に対する認識が狂うからです。飢餓が重大な精神症状や人柄の変化をもたらすことは意外にも知られていません。
1940年代に米国で強健な男性に約60%のカロリー制限食を6カ月摂取させる臨床試験が行われました。拒食症に似た食への執着が見られ、試験後に全員が過食になりました。さらに、不眠、気分の不安定、思考力の低下、社会性や人格の変化、認知の偏り、病的な頑固さなどの深刻な精神的合併症や、ささいな窃盗が見られました。
人生がうまくいかない時に「やせたい」と言う
拒食症のやせ願望は「似合う服を着たい」「もっとかわいくなりたい」といったファッション性の追求だと誤解されがちです。しかし、やせの最大のメリットは、やせるとつらい現実を考えないで済むような気分になり、達成感、優越感、安心感、周囲の関心、義務の免除などの誤った代償を得られることです。
つらさに対する感受性が鈍くなるので、いじめられていても通学でき、つらい練習や勉強もこなせるようになります。やせてから成績が上がることはよく経験されます。
患者さんは「やせる行動にかまけていると楽だ」と言います。反対に、体重を増やすことは嫌な現実に立ち向かうことを意味しているので治療を拒みます。体重が回復すると不登校や引きこもりになることもあります。体重の数字が怖いのではなく、健康体重になって困難な現実に直面するのが怖いのです。
摂食障害は人生がうまくいかない時にかかる病気です。多くの場合、学校や習い事に追い立てられるような生活、勉学や進路の悩み、人間関係(クラス、部活動など)、家族内葛藤など、理想が高く完璧主義の本人が思い通りにいかないことや心身の疲労の積み重ねが背景にあります。そんな時に「ぽっちゃりしている」と言われたり、クラブでレギュラーに選ばれなかったりという、思春期にはよくある出来事が引き金を引いて発症するのです。