死を意識すれば“今この瞬間”を生きられる

たしかに、過去のことは今の自分の頭の中にあるだけですし、未来もこれから自分に降りかかるものとしてやはり頭の中にあるだけだともいえます。そうすると、時間というものは、線分上に存在するのではなく、今この瞬間を生きる自分の中だけに存在するものになってしまうのです。これが根源的時間という考え方です。

そんな根源的時間に従うと、私たちの生き方も変わってくるのではないでしょうか? おそらく今この瞬間を一生懸命生きようというふうになってくるはずです。現にハイデガーもそう考えました。ちなみにハイデガーは、根源的時間を意識して懸命に生きられるようになるには、予め死を覚悟する必要があるといいます。人間は死を意識してはじめて、残された時間が貴重に思え、頑張るはずだというわけです。

だからゴールデンウィークの10日間を存分に楽しむというのは、ハイデガー的な時間の過ごし方なので、ハイデガーコースと名付けたわけです。あたかも残された時間が10日間しかないかのように、その10日間を充実させようと懸命になるということです。

あえて家の中に引きこもる方が幸せなことも

では、ソクラテスコースのほうはどうでしょうか。ソクラテスは「哲学の父」と称される古代ギリシアの哲学者です。彼は「無知の知」の概念で知られるように、自分は何も知らないと自覚し、知を探究し続けました。

なぜなら、魂への配慮こそが人生の目的だと考えていたからです。言い換えると、自分自身や自分の人生を吟味するということです。吟味しない人生は生きるに値しないとまでいいます。それこそが哲学の目的であり、善く生きるということなのだと。

だからソクラテスコースは、じっくりと自分を吟味する過ごし方になるわけです。せっかくの10連休なのに、あえて家の中に引きこもり、静かに自分と人生を見つめ直す。考えてみると、日頃忙しくて人生を顧みる暇もない私たちですが、さすがに10日も休みを与えられれば、少しは自分のことを振り返る時間がとれるはずです。つまり、全日本人が人生を吟味する時間を持てる貴重な機会だともいえるのです。

たしかに経済を重視するなら、レジャーや旅行に出かけてもらったほうが、日本のためにはいいのかもしれません。でも、人々の心の健康や正しい生き方を重視するなら、じっくりと自分を見つめ直してもらったほうが、ひいてはこの国のプラスになるようにも思えます。

もちろんどっちの過ごし方が正しいということはありません。自分はどっちを選ぶかです。大事なことは、10日間を過ごした後、どれだけ心の充足を得られているかだと思います。

(写真=iStock.com)
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