正しい仕事をする者ほど検査課内で疎まれるような風潮

他部署から理不尽な要求を受けたら上司に報告し、対処してもらうのが普通だが、「多く不合格を出し、ラインを停止しがちな者は検査課内においても疎まれるような風潮があった」という。つまり、上司も見て見ぬふりを決め込んでいた可能性が高い。「上司や先輩に不合格を合格にして良いと言われた、他の人がやっているのを見て、自分もやって良いと判断した」という供述もある。

検査員の中には不正検査を行うことを当初は悪いことなのではないかとか、心理的抵抗があった人もいたようだが、こうした状況では何を言ってもムダだと思ってしまうのも不思議ではない。仕事に対する意欲が上がるどころか、ますます低下していくだろう。

現場の雰囲気についてこう指摘している。

「現場の検査員も、役職者が現場の要望や不満に対して適切に対応してくれない、あるいは、役職者の検査業務への知見の乏しさのため、役職者に適切に現場の要望を理解することが困難であるとの認識から、役職者に対して、当該問題点を報告し、改善を求めることを半ば諦めていた」

他部署から左遷部署扱いされ、いったん送り込まれたらほとんど異動することはない。常に苦情を言われ、逆らうことも許されない。仕事に対する誇りも感じられなければ働く意欲すら失われてしまう、暗く沈滞したムードが漂う職場が長く放置されてきたことに驚かざるを得ない。

スズキ「ジムニー」のエンジン(写真=iStock.com/teddyleung)

車の安全性をないがしろにして生産性と効率性を重視

しかし、最も大きな問題は検査部門に限らず、他部署の社員を含めて車の安全性をないがしろにしてまで生産性と効率性重視に躍起となっていたことである。

スズキの各現場では生産性向上の名のもとで過度なコスト削減を要求されていた。同社は2018年3月期まで毎年200億円以上の原価低減を行ってきた。

その裏で「少人」と呼ばれる工場全体の人員を削減する取り組みが実施されてきた。一般的な工程の見直しによるカイゼンや自動化設備の導入ではなく単純に人を減らすだけの取り組みだった。

調査報告書はこう指摘している。

「具体的には、『少人』は、生産本部の業務計画に応じて、各工場の工場長が、各工場の業務計画を策定する際、各部門に対して、人員の削減目標を割り当て、工場の各部門において、割り当てられた人員の削減を実行するという形で長年にわたって実施されてきた。このように、『少人』は、検査課の人員に対してのみ人員の削減を要請するものではなかったが、検査課においては、例えば、『少人』を達成するため、検査員が定年退職した場合にその退職者分の増員をしないことや、検査員を同じ工場の事務職に異動させること等の方法により、検査員の人員を削減していたこともあった」