「延命措置を望まない」患者が運ばれてきた

介護施設に入所している、80歳近い男性が運ばれてきた。元々重度の心臓疾患があり、認知症の進行も認められるという。心肺停止状態で、山上は直ちに蘇生に取り掛かる。エコーで確認しながら生還への道を探っていたところ、男性の妻と連絡が取れた。

状況は一変。妻は「回復の見込みがなければ、延命措置を望まない」という。高齢化が進む現在、このようなケースは決して少なくないそうだ。その後も手を尽くしたが、男性に蘇生の兆しは訪れなかった。

【山上】「……じゃあ、中止します……」

こんな時、山上は複雑な思いにとらわれるという。

【山上】「われわれの仕事としては救命第一というのは変わらない。ただ何でもかんでもやることが正しいかどうかっていうことですよね。それをご本人が望んでいるのか」

救命救急医は患者と向き合いながら、同時に世の中の現実とも向き合っていた。

世の中の現実とも向き合うことになる(写真提供=毎日放送)

「ブラック患者」も受け入れる

「絶対に断らない」山上のもとには、当然厄介な背景を背負う患者も運ばれてくる。食道静脈瘤破裂の42歳の男性だ。過去に他の病院で暴力行為があり、受け入れ先が他に見つからなかった。

【山上】「近隣病院では、いわゆるブラックリストと言って、問題のある患者として受け入れ先が無かった。うちが断ったら本当に行くところがなくなって命を落とす可能性がある……」

医学的には緊急事態だ。救急だけでは対処できないため、直ちに内科と消化器の専門医も駆けつけ、内視鏡を使った止血処置が始まる。

【患者】「あーーーーーーーーーーーーーー」