「俺、いつまで“勉強”教えるんだろう」
1981年に東京で生まれた宝槻は3兄弟の長男で、一風変わった家庭教育を実践する父のもとに育った。学校になじめずに高校を中退したが、父親独自の教育法で京都大学に合格。同様にして弟2人も京大に進んだ。
卒業後“受験や成績アップを請け負う”学習塾を開いたものの、ふと立ち止まり自問したそうだ。
【宝槻】「俺、いつまで“勉強”教えるんだろう? って。究極的に言うと、勉強で成果が出ることに対して自分は関心がないってことに気づいたんですよ。目の前の子が『東大行きました!』って言っても『うん、良かったね』としか思えない。その一方で、小学生たちが「信長」とか「宇宙」とかの授業の方が面白いという声を聞いて、今に続くビジョンが音を立てて形になっていったんです」
「探究学舎」の授業は口コミで人気に火がつき、最近では希望者の求めに応えてオンライン授業もスタートした。だが、授業の在り方については試行錯誤を繰り返している。この日も保護者や塾に賛同する外部スタッフを交えて反省会を行っていた。
【スタッフ】「祭りのようにわぁっと盛り上がるのはいいんですけど、終わった後に結局、何を学んだのかな? とならないように。喧騒の後に何かを深めることができれば良いのですが……」
【スタッフ】「ちょっと品がないと取られる可能性もある。劇的なほうに煽り過ぎてる感がある」
盛り上がった後に何が残るか?
賛否両論あるのはもちろんわかっている。だが、まずは「面白そうだ」という興味さえ持たせれば、子供は自分の力で知識や理解を深めていくと宝槻は信じている。
例えば、半年前から塾に通っている小学1年生の女の子は、「元素編」の授業を受けて以来、物理学に恋してしまった。
【子供】「素粒子全部言えるよ! 余裕で言える! アップクォーク、ダウンクォーク、チャームクォーク、ストレンジクォーク~~(略)~~グルーオン、ヒッグス粒子、重粒子!!」
驚く大人たちを尻目に女の子は見事な”高速暗唱”を披露した。別の男の子は「戦国英雄編」の授業をきっかけに日本史に目覚め、壮大な絵巻物のような研究ノートを作っては宝槻に見せにくる。
塾はまだ今年で8年目。ここで学んだ少年少女は一体、どんな大人になるのだろうか。「星の子」たちの未来の可能性は無限に広がっている。
塾代表
1981年東京生まれ。3兄弟の長男で、一風変わった家庭教育を実践する父のもと育つ。高校は中退し、大検を取得して京都大学に進学。弟2人も京都大学へ。父から受けた独特な家庭教育とそのノウハウを著した『強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話』(徳間書店)が後に話題となる。2011年「探究学舎」設立。プライベートでは5児の父で、自宅は必ず公園の近くにするというこだわりを持つ37歳。