ビジネス書を鵜呑みにするな

率直に言うと、コミュニケーションで一番まずいのは、ビジネス書に書かれているような内容をそのままマネしてしまうことです。努力を重ねること姿勢はとても尊いのですが、イチローさんのマネをしても本人にはなることはできません。

たとえば、イチローさんが自伝で「一日500回素振りをやってうまくなった」と書いていたとしましょう。それを読んだ野球初心者の中学生が同じように毎日500回素振りをやったからといって、イチローさんのような実績を手に入れることはできないのです。

500回の素振りというのは、イチローさんの体格や性格、周囲の環境を含めてみずから編み出した「答え」であって、それまで積み重ねてきたプロセスを前提にした上で成り立っているのです。

また、イチローさんは引退会見でも記者から「どんなギフトを私たちにくれるのか?」という質問に対して、「ないですよ、そんなの。無茶言わないでくださいよ」と答えていましたが、これをビジネスにあてはめるとどうでしょう。

お得意先から「どんな提案をいただけるか?」と聞かれて、「ないですよ。無茶言わないでくださいよ」とは言えないでしょう。あれは、イチローさんが自分を客観視できているからこそ成立しているハイレベルコミュニケーションなのです。

私もビジネス書を書いている立場上、えらそうなことを言うつもりはありませんが、そこに書かれている事例は著者のひねり出した「答え」です。読者は、その答えを見て関心するのではなく、到達点を知りそこから逆算して自分に合った「問い」を立てることではないでしょうか。

比べるのは「他人」ではなく「昨日の自分」

陸奥部屋の力士・幕下の勇輝とのトレーニング風景。「筋トレ中のトレーナーは正しく追い込むための『方向指示器』だと思っている」(談慶さん)

そのためには、他人と比較するのではなく、徹底して一人になって、自分という存在を客観的に見つめることしかないはずです。筋トレにしても、いきなり上級者のマネをして重たいバーベルを持ち上げようとしたらケガするだけでしょう。大切なのは、昨日のトレーニングと比較して今日をいかに過ごすかということです。

前述したとおり、他人の評価に振り回されることも自分を見失うだけで無意味です。かくいう私も、「なんであいつが売れているんだろう」などと隣の芝生が青く見えた時期がありましたが、自分にしかない領域を極めようと今や腹をくくっています。だって「隣の芝生が青く見えるのなら、お隣さんにしてみればこちらの芝生も青く見えているはず」なんですもの(笑)。