自動車はどんどん飛行機に近づいている

――コネクティッドされていることによって、車の走行状態、記録がつかめるから、前もって、メンテナンスする予測ができるわけですね。だから、メンテナンス時間も短くすることができる。コネクティッドの恩恵のひとつと言えます。

【友山】はい。そして、自動運転が実現すると、コネクティッド機能はますます重要になります。車にはさらに9つのカメラ、たくさんのセンサー、複雑なアクチュエーターが付きます。同時に、自動運転車は大量のデータを収集します。そのデータを解析し、ソフトをアップデートし、またインストールしなければならない。

自動運転車の場合は、そうした大量のデータを1日に1回は抜いて、入れ替えが必要になってくる。とても、エアー(無線通信)では抜けません。鮮明な画像データを含んだ大量のデータですから。

データを抜き、車体に付設したすべてのカメラをキャリブレーションするので、そうなると、1日に1回はメンテナンスを受けなくてはならない。まさしく、ジェット機と同じです。

――すみません、キャリブレーションってどういう意味ですか?

【友山】ごめんなさい。キャリブレーションとはカメラの補正です。走っているうちにカメラってだんだんずれてくるんですよ。物理的な位置のずれもそうですし、9つのカメラの同期を合わせるのもキャリブレーションって言ってます。

――自動運転になると、普通の車でも、現在よりも確実にメンテナンスの頻度が多くなるということですね。そして、常時、コネクティッドされていなくては走ることもできない。

【友山】もちろんです。自動運転とコネクティッドっていうのはもう、切っても切れない関係です。まず、車の状態をいつも監視しなきゃいけないし、データを収集しなければなりませんから。

スマホならば、つながらないとか、フリーズしても、そのうち動くだろうという気持ちがユーザーにはあります。

しかし、自動運転は機能が止まれば乗っている人は命を失うかもしれない。複雑さ、大切さは飛行機と同じですし、1ミリ単位の制御をしなければいけないので、飛行機よりも精密かつ複雑な装置になります。

――コネクティッドに取り組んだのは、トヨタは早かった?

【友山】はい。正確にいうと2000年、現社長の豊田(章男)と一緒に、ガズーメディアサービスをつくったのが始まりでした。コンビニ用のKIOSK端末を造り、スリーエフ、ファミリーマートに設置したのがスタートですね。音楽の提供や中古車の画像が見られるようにしたのが最初の仕事だった。その後、2002年に「G‐BOOK」という名前で車とつながる機能を持ちました。

社長の豊田が、とにかくメーカーと顧客との接点をつくらなければと始めたんです。僕らは「BtoC」ビジネスって呼んでいて、Cはコンシューマーでなく、コンビニのこと。その時、BtoCの厳しさ、コネクティッドの厳しさを嫌というほど味わったんです。

たとえばKIOSK端末が壊れた。すると、店長が電話してきて、「すぐ直せ」。僕らは北海道でも沖縄でも飛んでいく。行って直す。修理に時間がかかるわけです。

すると店長が「おまえたちがガチャガチャやってる間、客が入らなかった。弁償しろ」と。僕らは謝りながら、お惣菜とか、弁当、カップ麺を買って帰る。沖縄で買ってきて、北海道で買ってきて、会社の机の上がカップ麺とお惣菜で、いっぱいになっちゃったんですよ。

それで、本当にもう、これが、お客様との接点なのかと悩んでいた時、北米にいた豊田が「車へのITサービス」というプロモーションビデオを持って帰ってきた。

車がコネクティッドされれば理想的なことができるという内容のビデオでした。

ビデオを見た時、「ああ、これだ」と。コンビニに行って、つながらない機器を修理して、お惣菜やカップ麺を買ってる場合じゃないんだ、僕らは。

KIOSK端末の事業は順調だったのですが、5年やって、あるシステム会社に譲渡しました。われわれの端末は車のなかに入れるべきだ、と。それで2003年に「Will サイファ」という、冒険的な車に初めてDCM(Data Communication Module)を積みました。ですから、コネクティッドを始めたのは世界に先駆けてだと自負しています。