世界中の観光地が「観光公害」に悩んでいる
観光やインバウンドには、文化の継続だけでなく、文化を復活させる力もあります。
たとえばタイでは伝統舞踊のイベントに観光客がたくさん来ることによって、その舞台が守られました。また古式ゆかしい人気のタイシルクも、第二次世界大戦時にタイに赴任した軍人で、実業家であるアメリカ人のジム・トンプソンが事業化を行い、観光客に販売したことで世界的に知られるようになりました。
今現在、世界中の観光地が「観光公害」という問題を抱えています。
ただし京都、バルセロナ、フィレンツェ、ヴェネツィア、ニューヨークといった都市、もしくは町は、過去数十年にわたって観光客が来訪し続ける価値を持ちえたからこそ、旧市街の町並みやそこでの暮らしが残ってきたともいえます。
人口減少が進む日本、とりわけ地方の町や村は、観光という起爆剤を持ち込まないと、やがて経済が回らなくなり、消滅への道をたどってしまいかねません。町の消滅は、同時に文化と歴史の消滅を意味します。
著書『観光亡国論』に繰り返し記しているように、そこには適切なマネージメントとコントロールが必要であることは、ここであらためて強調をしておきたいと思います。
さらに、日本人が大切にしてきた場所ならば、安易に「世界遺産登録」などの世界のブランドに頼る前に「日本が認めた」「地元の方々が守ってきた」といった視点を、今一度磨くべきなのではないでしょうか。
東洋文化研究者
1952年、米国生まれ。NPO法人「篪庵(ちいおり)トラスト」理事長。イェール大学日本学部卒、オックスフォード大学にて中国学学士号、修士号取得。64年、父の赴任に伴い初来日。72年に慶應義塾大学へ留学し、73年に徳島県祖谷(いや)で約300年前の茅葺き屋根の古民家を購入。「篪庵」と名付ける。77年から京都府亀岡市に居を構え、90年代半ばからバンコクと京都を拠点に、講演、地域再生コンサル、執筆活動を行う。著書に『美しき日本の残像』(朝日文庫、94年新潮学芸賞)、『犬と鬼』(講談社)、『ニッポン景観論』(集英社)など。
清野由美(きよの・ゆみ)
ジャーナリスト
東京女子大学卒、慶應義塾大学大学院修了。ケンブリッジ大学客員研究員。出版社勤務を経て、92年よりフリーランスに。国内外の都市開発、デザイン、ビジネス、ライフスタイルを取材する一方、時代の先端を行く各界の人物記事を執筆。著書に『住む場所を選べば、生き方が変わる』(講談社)、『新・都市論TOKYO』『新・ムラ論TOKYO』(いずれも隈研吾氏との共著、集英社新書)など。