ミャンマー政府はかつてバガンの世界遺産登録を進めましたが、軍事政権下ということもあり、遺跡の管理体制が十分でなく、話は進展しませんでした。その後、民主化を機に世界遺産登録への機運が再び高まり、その盛り上がりと並行するように、観光客がワッと押し寄せるようになりました。

夕方になれば絶景スポットとされる高さ数十メートルほどの寺院に人々が大挙して集まり、その混み合うさまは古代寺院の神秘どころではなく、危険そのものです。中には夕暮れをBGM付きで楽しみたいということで、あたりかまわず音楽をかける人も出ているといいます。

世界遺産登録は地方再生の「妙薬」ではない

ユネスコサイドの流れは、おおむね次の4段階を踏んで進みます。

1、世界遺産に登録される、あるいは登録運動が起こる
2、観光客が押し寄せて遺産をゆっくり味わえなくなる
3、周辺に店や宿泊施設が乱立して景観がダメになる
4、登録地の本来の価値が変質する

特に日本では、ユネスコによる世界遺産登録を、地方を甦らせるための「万能の妙薬」のごとく、ありがたがる風潮があります。しかし世界の実情では、ユネスコによる世界遺産登録がうわさされただけで、人々が押し寄せ、管理が行き届かなくなる事態が生まれており、さらにはそうした人たちが一気に増えたり減ったりすることで、地域がダメージを被る、という問題まで起きているのです。

観光振興をテーマにしたある集まりで、群馬県から来た人と話す機会がありました。

群馬にある世界遺産といえば、2014年に登録された「富岡製糸場と絹産業遺産群」が有名です。登録が決まったときに、観光客が大勢並んでいるニュースを私は見ていましたので、「世界遺産に登録されたらされたで、大変なことですね」と話しかけたところ、相手の方からは「いや、もう熱は冷めました」と意外な返事が返ってきました。