「難解な美術作品」にひるまず自由奔放に意見を述べる子供
この日のテーマは「知られざるドイツ建築の継承者 矢部又吉と佐倉の近代建築」。かなり渋い展示内容だったが、参加した小学5年生の生徒から言葉が次々にあふれてくることには驚いた。
建築模型の前で、1人の男子生徒がある部分を指さして「全体を見たときに、ここから雰囲気が変わっている。こっちは昔っぽい。こっちは新しい」というと、鑑賞ファシリテーターが「和洋折衷になっているということだね。どこからそう思ったの?」と返す。
商店の設計図と模型の展示では、2つを比較して「屋上は設計図に書かれていないのにどうやってつくったのだろう」「同じ寸法のところは設計図で省略されているのかな」と次々に発見を口にしていた。
「鑑賞ファシリテーターがもっとも心を砕いているのは、たくさん感じてもらうこと。“アートを見て感じたことは自分にとっての真実で『正解』も『不正解』もない。だから、なんでも思うことを言っていいんだよ”と子どもたちには繰り返し伝えています」(永山さん)
そのうえで鑑賞会では、次の3つの問いを投げかけるという。
「『(作品の中で)何が起こっているだろう?』『どこからそう思った?』『ほかにも発見はありますか?』。これらの問いに対する子供たちの発言を言い換えたり、他の発言とつないだりしながら、受け止める。やっていることはこれだけなのですが、子供の考えが深まったり、表現力が豊かになったりするのです」(永山さん)
「感じたまま、何を言ってもいい」と言われて心が自由になった
取材当初は「アート作品を見て、感じたことを話すだけで本当に感性が磨かれるのか?」という思いがあったが、鑑賞会後、次のような子供たちに話を聞くと考えが変わった。
「いままで美術館に行っても、あまりおもしろくないって思っていたけど、じっくり見て、感じたことを話してみて、みんなの意見も聞いていたら広がった。また美術館に行ってみたいです」
「算数の授業とかだと正解が絶対にあるけど、鑑賞には正解がない、というかすべて正解だから、なんでも言えました。最初は難しそうって思ったけど、やってみたら楽しかった」
もともと子供たちは美術鑑賞も学校の勉強のように、正解がある、型にハマったものだと考えるフシがあった。でも、鑑賞ファシリテーターから「アート鑑賞に正解や不正解はない」「感じたまま、何を言ってもいい」と繰り返し言われて初めて、この対話型鑑賞会で休み時間のように心を自由にして、作品を能動的にみられるようになった。だからこそ、いろいろなことを感じ、発見できた。
このように能動的に物事を見られるようになることこそ、感性や美意識を磨く第一歩。そうやってたくさんのことを感じとり、自分の心を動かす経験を積み重ねることが、やがては社会人となって人の心を動かすような創造性や意思決定の力になるのだろう。
このアートの対話型鑑賞は同館のほかにも平塚市美術館、東京都美術館などでも実施している。